KDDI系の通信会社で2009年に開業、WiMAX方式の無線データ通信サービスを提供してきたUQコミュニケーションズ。2015年10月には、「UQモバイル」ブランドのMVNO(仮想移動体通信事業者)サービスを手掛けていたKDDIバリューイネイブラー(KVE)を吸収合併し事業を引き継いだ。それから1年。競合他社がシェアを拡大する中で追撃の足場を築くことはできたのか。野坂章雄社長に戦略を聞いた。

(聞き手は高槻 芳=日経コンピュータ

11月7日に新サービス・端末を発表した野坂章雄社長
11月7日に新サービス・端末を発表した野坂章雄社長
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携帯大手や他のMVNOとの違いは。

 当社はMVNO事業を手掛ける一方で、自社の通信インフラも保有する、いわゆる「MNO(移動体通信事業者)」でもある。主力の無線データ通信サービス「UQ WiMAX」では全国規模の販売網を培ってきた。技術的な挑戦も続けている。2016年末までに、通信速度を開業当初の10倍以上となる最大毎秒440メガビットに引き上げる予定だ。

 格安スマホが流行し始めているが、大手携帯電話会社から乗り換えて大丈夫かどうか不安に感じている消費者はまだまだ多い。無線データ通信サービスを長年手掛けてきた当社のノウハウをMVNO事業にも注入しながら、消費者が安心に使え割安感もある「ちょうどいい」サービスを提供する。これが当社の戦略のポイントだ。そういう意味では、KVEといっしょになりMVNO事業を始めてからは「準備の1年」だった。

 例えば、MVNOサービス「UQモバイル」の開始当初は、無料通話がないプランが中心だった。そこで2016年2月から、データ通信と無料通話がセットの「ぴったりプラン」を始めた。7月には「イチキュッパ割」の導入で月1980円に値下げした。

端末の品ぞろえが貧弱だった。

 京セラ製と韓国LG電子製の2種類しかない時期が長かったが、「2種類の中から選んで」という状況は消費者になかなか受け入れてもらえない、とも痛感していた。米アップルのiPhone 5sの取り扱いを始めたのは今年7月のことだ。

 並行して米グーグルのモバイルOS、Androidを採用する国内外の端末メーカーと粘り強く交渉してきた。その結果、9月以降に計8機種を秋冬モデルとして用意できた。iPhone 5sなど既存モデルを含めると12機種になる。

音声通話サービスも拡充している。

 来年2月から、1回5分以内の通話なら回数無制限でかけ放題にできる「おしゃべりプランS」を追加する。既存のプランは1カ月当たり30分や1時間の無料通話ができる内容だった。チャットアプリの全盛時代に電話のかけ放題サービスどこまで必要か、という見方はある。ただ、1回数分以内の通話が無料になるサービスは、携帯大手をはじめ様々な競合企業が導入している。他社から安心して乗り換えてもらうためにも重要なサービスだ。