ITデューデリジェンス(資産査定)とは、主にM&A(買収・合併)の際に、買収先企業の情報システムを調査することを指す。買収先が、保有するIT資産の状況を正確に把握することで初めて、新会社発足日(Day1)までのシステム改修や、将来的なシステム統合(Day2)の計画が立てられる。しかし、ITデューデリジェンスの重要性は、十分に浸透しているとは言い難い。

 本特集では全5回にわたり、ITデューデリジェンスの「いろは」を解説する。第3回は、具体的なITデューデリジェンスの進め方を紹介しよう。(編集部)


 全ての設計図やマニュアルを常に最新にアップデートし、ITのコストをしっかりと管理できているIT部門はどのくらいあるだろうか。「うちは完璧だ」と自信を持って言い切れる企業は、皆無と言えるかもしれない。システム運用保守が属人化していて、ドキュメントが整備されていないといったことは、よくある話だ。

 裏を返すと、M&A(合併・買収)や事業統合をする場合、相手先企業の情報システムの全貌をつかむことは、非常に困難な作業だということになる。それでも短期間のうちにITデューデリジェンス(資産査定)を完了しなければ、買収後の情報システム像を描くことができず、M&Aそのものに悪影響を及ぼす。

 M&Aや事業統合に際してIT部門が取り組むべきポイントを解説する本特集の第3回となる本稿では、ITデューデリジェンスの流れを見ていこう。ITデューデリジェンスは、買収先の情報システムに潜むリスクを可視化し、次の工程である統合計画の策定につなげるための要となるステップだ(図1)。

図1●一般的なM&Aの流れ
図1●一般的なM&Aの流れ
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時間をかけた割に全貌が分からないことも

 M&Aの対象企業が抱える国内外の情報システムが、どのようになっているか――。これをくまなく調査することが、ITデューデリジェンスにおける理想だ。しかし現実には時間と予算の制約があり、効率よく実施しなければ、時間をかけた割には必要な情報が集まらなかったという事態に陥りかねない。そこで重要なのは、やるべきことの絞り込みだ。

 同じM&Aでも事業買収の場合、一般的に情報システム部門は買収対象にならない。目に見えない資産をいかに引き継げるかが大きな課題となるため、買収先のIT要員のスキルやノウハウといったものを綿密に調査する必要がある。しかし買収先のIT部門を自社に迎え入れられる見込みならば、同じ調査を簡略化することが可能だろう。

 M&Aのゴールによっても、ITデューデリジェンスにかけるべき労力は異なる。例えばクロスボーダーのM&A案件で、将来的に業務プロセスをグローバルで見直したい場合は詳細なITデューデリジェンスが必須だろう。だが国内企業を100%子会社化し、単に連結決算対象に加えるだけならば、簡単な査定で済ませてもいいはずだ。

 ITデューデリジェンスは、想像以上に手間の掛かる作業である。完璧を求めるのではなく、状況に応じて優先順位をつける姿勢が求められることを頭に入れておきたい。