ITエンジニアはしばしば、現場で相手を説得すべきシーンに直面する。

 NECソフトの清水和也さん(サービス業ソリューション事業部 商社SCMグループ プロジェクトマネージャー)は、ユーザー企業のEDIシステムを再構築した最近のプロジェクトで、「細かい機能を数多く盛り込むことを強く求める利用部門の担当者に、機能を絞り込むことに納得してもらった」と話す。ドリーム・アーツの舟木宏祥さん(ICO企画推進本部 ICO企画推進部 マネージャー)も、「外部設計の工程において、1画面に大量の情報を表示したいと求めるユーザー企業の担当者に、性能や使用感の問題を伝えながら諦めてもらった」。

 清水さんや舟木さんと似た状況は、読者の皆さんも経験しているのではないか。このような状況で相手を説得できないと、理不尽な要望を受け入れて予算や納期が超過したり、相手を怒らせてしまったりしかねない。

 さらに、説得の相手は利用部門に限らない。チームメンバーや協力会社のエンジニア、自分の上司を説得しなければいけないケースもある。

 さまざまな状況で相手を説得して円滑に業務を進めるため、説得術はぜひとも身に付けたいスキルだ。

多くの関係者が納得する論理を作る

 では、どのように相手を説得すればいいだろうか。例えば、頭を下げ続けたり、相手の性格を見極めて心理作戦を仕掛けたりするといったアプローチがある。ただし、相手の心理に働きかけるアプローチにばかり頼ってしまうのは危険だ。

 というのも、ITの現場で説得が必要になるシーンでは、開発チームのメンバー、利用部門、プロジェクトオーナーなど、さまざまな関係者が存在することが多い。そうした多様な関係者を説得する上では、主張と根拠がしっかりと結び付いた論理を展開する「ロジカル説得術」が有効だ。

 このロジカル説得術は、単に論理的に正しい主張を展開するだけのものではない。自分の主張を相手がどのように受け止めるのかにも配慮して論理を展開するスキルである。

 論理思考に詳しいピースミール・テクノロジーの林 浩一さん(代表取締役社長 CEO)は「論理的に正しい主張でも、説得力があるとは限らない」と指摘する。利用部門とエンジニア、リーダーとメンバーといった立場の違いなどの“文脈”によって、同じ主張や根拠を聞いても受け止め方が変わるためだ。

 例えば「開発業務は小さな想定外の事態が起こるだけでも遅れが生じかねないことはITエンジニアには常識だが、利用部門にはほとんど伝わっていない」(林さん)。従って簡単な機能の追加を求める利用部門の担当者に、システムへの影響を論理的に説明しても、十分な説得力を持てないわけだ。

四つのポイントの認識をそろえる

 相手の受け止め方に配慮するとは具体的には何だろうか。これを探るため、論理的に説得することが得意なITエンジニアに取材したところ、共通点が浮かび上がった。それは、相手の立場に合わせた論理を展開しながら、互いの認識をそろえていたことである。