今回は、若手エンジニアに身に付けてほしい「勝ちパターン」について取り上げたい。IT現場では「こうすればうまくいくのに、なんでみんなそうしないんだろう?」と感じることがある。そして実際に自分が考えるやり方を試すとうまくいく。だんだんとそういう経験が増えていく。そんな体験から話を進めよう。

 筆者が30歳のころ、Windowsアプリケーションが主流の時代、JavaScriptとDHTMLが当時のWebブラウザーIE4.0で適切に動作することに気がついた。日本語のドキュメントが不十分な段階だったが、英語のドキュメントを参考に作ってみると、期待どおりに動作する。HTMLでアプリケーションを作れるなら、デザインの自由度が高まる。インストールや更新の手間もなくなる。

 しかし、周りは誰も実践してない。先輩は「技術的に出来るのは分かるが、誰も使ってないのは何か問題があるのでは?」と慎重な態度だった。

 そんな折、上司から「障害が多く、維持コストの割にユーザーの評価も売上も低いサービスを何とかしてほしい」と頼まれた。そのサービスではActiveXコントロールを使っており、IEとの相性がよい。早速、JavaScriptとDHTMLの利用を提案し、9カ月でリリース。運用性の高さを買われて徐々にユーザーを増やしていった。

 その後、「Google Maps」が発表され、JavaScriptとDHTMLは世界的にも主流になり、Web2.0時代を迎えた。海外の競合も実は同時期に同じ技術で新しい製品を出していたが、一周遅れは避けられた―。

 JavaScriptとDHTMLの活用は目に見える勝ちパターンだ。このストーリーの裏には目に見えない勝ちパターンが潜んでいる(図1)。現在の仕組みの課題を認識しておくこと、開発だけでなく運用関連部署など幅広く話を聞くこと、有効だと考えられる技術について先行して検証しておくこと、相談を受けたらすぐさま提案すること、相談が来るように信頼を得ておくこと、などである。これらは一見当たり前だが、実際にできる人は少ない。

図1●筆者が経験から得た勝ちパターンの例
図1●筆者が経験から得た勝ちパターンの例
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アラサーは勝ちパターンが増える頃

 30歳前後は、勝ちパターンが徐々に増えていく時期だ。モノを作る力は最高潮で、頭の回転も速く、体力的に無理が効く。同時に、勝ちパターンを活用することで、仕事の選択肢が飛躍的に増えていく。しかしその中で、望ましい将来をつかみ取るためには、自分の立ち位置を考えながら、増えた選択肢の活かし方を考えていく必要がある。

 勝ちパターンを作るには、経験が必要だ。知識は、本やネット、人を介して比較的早く獲得できるが、それを現実に応用しながら実際に意味のある結果を出すには、それなりの時間が掛かる。筆者にとっては、その一つがJavaScriptとDHTMLだった。技術自体は書籍やドキュメントに載っているものだが、自ら実験することで、実際のサービスに適用しても十分な効果を得られ、品質も大丈夫だという確信が高まった。

 つまり、経験に基づく深い理解があれば、目前の状況に対して、自分が経験した「うまくいきそうな方法」を当てはめられる。スポーツにおける「勝ちパターン」、囲碁や将棋での「定石、勝ち筋」、料理における「レシピ」のようなものだ。人は学習と経験を通じて、膨大な数の勝ちパターンを頭に入れていき、必要に応じて即座に取り出して駆使しながら、目の前の課題をクリアーしていく。