将来にわたって生き残るために、何を学んでいったらいいのか。日々のタスクをこなしながら、獲得すべき知見は何だろうか。そのために何にトライしていけばいいだろうか―。

 ITエンジニアにとって、この問いは重要かつ深刻で、確たる答えもない。自分の持つ情報を分析し、マイクロな状況判断と学びを繰り返しながら、進んでいかなければならない。他人が作った地図は参考にはなるが、自分の目前の状況を反映していない。

 これまでの連載で、スキルマップの「使い方」を紹介してきた。今回は「作り方」に進む。スキルマップの良い点は、自分で自由に作れるところにある。周りの人たちと「共通認識としてのスキルの地図」を作るのも可能だ。共通認識としてのスキルマップは、自分の立ち位置と、周りの人々との関係を確認できる。

 今回は「協調ワークショップ」という手法で、同じチームの人たちとスキルマップを作っていこう。協調ワークショップは、複数の人が協力してアイデアを議論しながら取りまとめていく手法の一つ。アジャイル開発における要件定義や、新製品開発のためのデザイン思考で使われている。アイデアの発散、探索、収束の3ステップに分けて議論を進めていく。

(1)発散フェーズ
どんなスキルがあるかを書き出す

 協調ワークショップはまず発散フェーズから始める。チームにとって必要なスキルの種類にはどんなものがあるのか、できるだけ多くのスキルをアイデアとして出していく(写真1)。

写真1●協調ワークショップの風景
写真1●協調ワークショップの風景
発散フェーズで出てきたアイデアを書いた付箋紙を分類し、六つのロールの名前を書いた付箋紙を上に置いたところ
[画像のクリックで拡大表示]

 「そんなことはリーダーや技術的に優れた人が考えるべきで、自分には荷が重い」と感じる人がいるかもしれない。しかし、全員参加でやってほしい。アイデアは多様性があるほうがよい。多く出しておき、後で直していけばいい。初心者でも貢献できる。熟練者が初心者の視点に立ち返って考えるのは難しいからだ。

 ここでは付箋紙を使ったアイデア出しワークショップを紹介する。75ミリ×75ミリのサイズの強粘着タイプの付箋紙、もしくはハガキサイズの無地の用紙を用意しよう。強粘着タイプの付箋紙は壁やホワイトボードに貼って作業できる。机の上だけでやる場合は、はがき用紙が便利だ(図1)。

図1●どんなスキルがあるかを書き出す発散フェーズ
図1●どんなスキルがあるかを書き出す発散フェーズ
[画像のクリックで拡大表示]

 まず、10分程度で、各員がチームにとって必要なスキルを書き出す。全員で紙とペンを一組ずつ持ち、思いつくものを書いていく。紙一枚につき一つのアイデア。他の人にも読める文字で、シンプルな表現で書こう。言葉足らずはあとで口頭で補足できればよい。なるべく大きな文字で書く。10分で一人10枚を目安にしたい。周りと話さず、思いついたアイデアを紙に書き留めることに集中しよう。

 すでに出来ているスキル、出来ていないけど必要なスキル、他のメンバーが持っているスキル、以前いた人が持っていたスキル、ほかのチームの人が持っているスキルなど、思いつくものを書き出す。「…のとき、…ができること」のように具体的に書いてもよいし、「ファシリテーター」のように特定スキルを持つ人のラベルでもよい。

 決まった答えはないので、なるべく多くの枚数を書こう。他のメンバーとアイデアが重複したら探索フェーズで一つにまとめるので、重複を恐れる必要はない。

 5人のチームなら50枚以上の付箋紙やカードが集まる。重複や似ているもの、ユニークなものもあるだろう。実際に筆者が社内のチームで実際した際には、次のようなスキルが出てきた。

  • ビジネス側の担当と要件を詰めることができる
  • 動くモックアップを2時間以内に作成できる
  • 予算策定時期に、システム上必要な対応を提案して予算を取れる
  • チームのタスクの進捗管理ができる
  • 障害のアラートがあがったときに、一次切り分けができる
  • CIサーバーにテストを登録できる(CIサーバーがなければ立てる)
  • 新しいサービスを始めるために必要なインフラ担当との調整ができる
  • 新規サービスのシステムテストを設計できる