今回紹介する書籍『ITアーキテクトはA3用紙に図解する』には、NTTデータ・春田氏のノウハウをまとめています。春田氏とはどんな人物なのか。著名なエンジニアではありませんが、NTTデータで長年ITアーキテクトを務めてきた人です。ただ、本書を読んでもらえれば分かりますが、こういう無名の技術者にこそノウハウが蓄積されています。春田氏が磨き上げたITアーキテクトとしてのノウハウをぜひ継承してもらいたいものです。では、『ITアーキテクトはA3用紙に図解する』の「まえがき」をお読みください。(松山貴之=日経BP社 コンピュータ・ネットワーク局 ネット事業プロデューサー)

 日本のシステム開発や保守維持の品質は高いことが知られています。その品質の高さを支えているのは間違いなく現場のエンジニアです。一方で、エンジニアのノウハウは暗黙知となっており、世の中に数多く出版されているノウハウ本には書かれていません。

 また、職人気質のエンジニアが少なくなく、開発プロジェクトの現場では、そのノウハウ継承に課題を感じられている方もいるのではないでしょうか。

 いわゆるノウハウ本には、ITエンジニアが身につけるべきプロジェクトマネジメントのスキルや、技術的なスキルが教科書的に「べき論」として書かれています。「べき論」であるがゆえに、その内容は開発プロジェクトの現場ですぐに役立つものではないように感じます。

 書籍『ITアーキテクトはA3用紙に図解する』はそういう状況を踏まえ、あえてIT エンジニアが備えるべきスキルを教科書的に体系立てて書いていません。これまでに携わってきた開発プロジェクトの現場で、筆者が「具体的に実践していること」と「その理由」を実例も交えながら書いています。コスト、納期といった様々な制約がある開発プロジェクトにおいて、効率良く、所定の要件を満たし品質を確保するためのノウハウです。

 最初は「何でそんなことをするんだろう?」と疑問に思うかもしれません。そうしたことも読み終わる頃には「なるほど」と理解できるはずです。また、実例は複数のサブシステムを組み合わせて構築された、大規模システムをベースにしていますが、「具体的に実践していること」と「その理由」は、どのようなシステムにも当てはまると思います。

 若手のエンジニアの方には、「具体的に実践していること」を理由も含めて理解することで、開発プロジェクトでの日々の業務に役立ててほしいです。

 また、後進の育成を担当するエンジニアの方にとっては、「具体的に実践していること」はご自身が実践されていることと重なるかもしれませんが、「その理由」を参考に、背景を改めて認識し、後進の育成や動機づけに活用してもらえるとうれしいです。

キャリアの大半をITアーキテクトとして歩む

 筆者の経歴を簡単に紹介します。20数年にわたりIT の世界で過ごし、その大半をITアーキテクトとして歩んできました。30代前半の頃から、大規模プロジェクトに本格的にIT アーキテクトとして関わっています。初めて担当した大規模プロジェクトは勘定系共同システムの更改プロジェクトで、企画、提案からリリースまで全工程を担当しました。役割は基盤系開発グループのチームリーダーでした。

 このプロジェクト終了後は、別の勘定系共同システムの更改プロジェクトを担当し、試験計画、システム移行計画の立案を推進するグループのリーダーを担いました。その後、再度初めて担当した大規模プロジェクトに戻り、次のシステム更改プロジェクトを企画、提案からリリースまで担当しました。役割は、企画、提案の責任者、基盤系開発グループのリーダーです。

 経歴のほぼすべてで、勘定系共同システムの大規模システム更改プロジェクトを担当してきましたが、いずれも業務機能追加と基盤再構築を伴う開発プロジェクトです。書籍『ITアーキテクトはA3用紙に図解する』にはこれらシステム更改プロジェクトの現場において、筆者自身が実践してきたことを開発プロジェクトの工程に沿ってまとめています。