今回紹介する書籍『Cloud First Architecture 設計ガイド』は、「システムアーキテクチャー」の本です。タイトルにある「Cloud First(クラウドファースト)」とは、クラウドを前提にしたシステム開発のこと。この考え方は一部のネット企業が採用するにとどまっていますが、今後は一般的な企業システム(=エンタープライズIT)にも広がる可能性を十分に秘めています。本書を読んで未来のアーキテクチャーを手に入れてほしい。では、『Cloud First Architecture 設計ガイド』の「はじめに」をお読みください。(松山貴之=日経BP社 コンピュータ・ネットワーク局 ネット事業プロデューサー)

 書籍『Cloud First Architecture 設計ガイド』はクラウド技術をカタログ的に知るための本ではありません。クラウド技術を前提に、「いかにしてシステムを設計するのか」を考えるための本です。

 クラウド技術の進歩は目覚ましく、様々なツールやプロダクトが生まれています。それらを使えば、これまではできなかったような新しい価値を生み出すシステムを作り出せます。

 ただし、「クラウド技術を使いこなせれば」という前提です。あらゆる技術には「必要となった背景」と、それに合った「最適な適用領域」があります。そこを外してしまえば、期待した効果を発揮することができないだけではなく、むしろマイナスの効果を生んでしまいます。

 クラウド技術を使いこなすには、アーキテクチャー設計において「考え方」の変更が必要です。クラウド技術の原点は単なる仮想化技術ですが、それがアジャイルソフトウエア開発やDevOpsといったムーブメントの影響を受けながら、高度なシステム運用を支える基盤となりました。

 そして、システムに関わる企画、開発、運用といったライフサイクルを変えながら発展しています。システム開発に直接携わるエンジニアだけではなく、システムを使ってビジネスをしている一般のビジネスパーソンも影響を受けているのです。

ITエンジニアがしなければならない2つのこと

 書籍『Cloud First Architecture 設計ガイド』はクラウドを前提とする「クラウドファースト」で、アーキテクチャー設計を進めるためのガイドとして執筆しました。クラウド技術を使うエンジニアは、2つのことをしなくてはいけません。

 1つはクラウド技術を理解し、何に適しているのかを知らねばなりません。もう1つは、自らが解決すべき課題に適しているのかを考えねばなりません。こうした行為が「アーキテクチャー設計」です。

 書籍『Cloud First Architecture 設計ガイド』の主な読者として想定したのは、現時点で、オンプレミスの業務システムに携わっているエンジニアです。ですから、既存の組織・手法・システム資産との関係性についても記述しました。

 エンタープライズに関わるエンジニアから見れば、クラウド技術と、それを取り巻くプロダクトにはまだまだ未成熟な側面があります。明日からすべての仕事をクラウドファーストにできるわけではありません。

 しかし、クリステンセンが『イノベーションのジレンマ』(翔泳社発行)で指摘したように、「クラウド技術なんて未成熟過ぎて使えない」と無視を続けていると、いつのまにか自分たちが時代遅れになってしまいかねないのです。大事なことは横目でよいから、きちんと「これは何に使えるのか?」と見続けることです。そして本当に必要になったとき、すぐにクラウド技術に取り掛かればいいのです。

 筆者の仕事はエンタープライズのシステム開発です。現時点で、筆者が関わるすべてのプロジェクトが「クラウドファースト」になっているわけではありませんし、すべてが「クラウドファースト」になる必要があるかもわかっていません。しかし、来るべき日に向けて準備を進めています。書籍『Cloud First Architecture 設計ガイド』は、そうした思索から生まれたものです。