今回紹介する書籍『さわってわかる機械学習 Azure Machine Learning 実践ガイド』は「機械学習」の解説書です。機械学習といえばデータサイエンティストのツールという印象がありますが、本書はITエンジニアを対象にしています。米Microsoftが「Azure Machine Learning」という専用サービスを提供しており、従来に比べて機械学習のハードルは低くなっています。挑戦心あふれるITエンジニアにぜひお薦めしたい。では、『さわってわかる機械学習 Azure Machine Learning 実践ガイド』の「はじめに」をお読みください。(松山貴之=日経BP社 コンピュータ・ネットワーク局 ネット事業プロデューサー)

 およそ2年前から、徐々に「機械学習」という言葉を身の周りで見かけたり、耳にしたりする機会が増えてきました。GUIベースで簡単に機械学習を実現できるMicrosoft社の「Azure Machine Learning(Azure ML)」が2014年6月にパブリックプレビューとなり、2015年2月にGA(General Availability、一般提供)となったことから、飛躍的に「機械学習」が世の中に浸透していったように感じています。

 筆者の勤めるFIXER社は2015年5月、日本マイクロソフト社の国内最大級の技術者向けイベント『de:code 2015』で、100万ユーザーを越えるスマホゲームのユーザー離脱(退会)予測にAzure MLを活用した事例を紹介しました。同年10月には、日経BP社主催のセミナー「ゼロから分かる『機械学習』実践講座」で講師を務め、Azure MLをハンズオンで解説しました。こうした活動を通してFIXER社を知ってもらい、日本を代表する企業の皆さまから「機械学習を使って機械・機器の故障予測や予防保守をしたい」「機械学習を使ってロボットの人工知能を作ってほしい」といった依頼をいただいております。ますます機械学習への関心が集まっていることを日々実感しているところです。

 書籍『さわってわかる機械学習 Azure Machine Learning 実践ガイド』の狙いは、機械学習をバズワードにすることなく現実のビジネスで利用し、商品やサービスに変えていくことです。アカデミックな価値の追求は目指していません。読者の皆さんが機械学習を【利用】【活用】できるようにし、時代の大きな変革期に遅れず、あるいはリードできるようにしていくことが目的です。エンジニアの方々やビジネスの現場にいる皆さんが、機械学習を使って新しいサービスを作り出したり、見つけられなかった視点をデータから見つけられたりできることを目指しています。

 これまで機械学習というと「データサイエンティスト」と呼ばれる専門の人たちが使う専門的な道具でしたが、これからは違います。ビジネスの現場にいる方々が直接データを分析し、データを使ったサービスや、人工知能を搭載したサービスを作り出せるようになってきました。もう、ビジネスサイドとデータサイエンティストの間の認識や理解の壁はなくなったと言っても良いかもしれません。一般のシステムエンジニアやデベロッパーでは手が出しづらかったデータ分析やレコメンドエンジン、人工知能の開発や活用も、極端にハードルが下がってきています。

 「統計」というものが紀元前エジプトで生まれてから3000年以上経ち、機械学習の理論的基礎が生み出されてから40年が経過していますが、現実のビジネスへの活用は限定的だったと言えます。筆者も株式データの分析に長年従事し、さまざまな手法を利用して市場の動向や個別の銘柄の予測などを行ってきましたが、金融工学や統計学から導かれた既存の理論では、なかなか高い成果を上げることはできませんでした。

 詳しい方法は省きますが、将来の市場予測で高い成果を上げられたのは、サーバーを何十台も並列に並べ、コンピュータの計算力を大量に使って、関数化せずに離散数を分析した手法でした。現在もムーアの法則は生きており、コンピュータの処理性能、計算リソースはどんどん拡大しています。そしてクラウド時代に突入したいま、個人でも短期間であれば低コストで数十台、数百台のサーバーを利用することが十分可能になりました。

 それと同時に、大量のデータを安価に蓄積することも可能になってきました。例えば現代では多くの人がスマートフォンを利用しており、世界中で何億台ものスマートフォンからGoogleやApple、スマホアプリの開発者の下へ大量のデータが刻々と送信されています。何百万台・何千万台の自動車や家電製品からも、毎分・毎時間といった間隔で、ログデータが送信されています。10年前であればこれほどの大量データを収集したり蓄積したりすることはコスト的に不可能でした。10年前、1T(テラ)バイトの容量がある高速なエンタープライズクラスのストレージの価格は1億円を越えていましたが、今なら1万円以下のHDDでも1Tバイト以上の容量があります。Azureのストレージサービスも、2016年4月現在、99.9%のSLA(サービスレベルアグリーメント)と3重の冗長構成付きで1G(ギガ)バイト当たり月額2.28円~という金額です。