プロジェクトマネジャーが壁にぶつかった時に読んでいる。そんなシーンが浮かぶのが本書『プロフェッショナルPMの神髄』です。中規模プロジェクトと大規模プロジェクトでは求められるマネジメントスキルが違うと著者は言います。であるならば、中規模の経験を大規模に適用すると失敗してしまいます。本書は「大規模プロジェクト」に焦点を当てた数少ないマネジメント本で、PMに強くお薦めしたい。では、『プロフェッショナルPMの神髄』の「はじめに」をぜひお読みください。(松山貴之=日経BP社 コンピュータ・ネットワーク局 ネット事業プロデューサー)

 書籍『プロフェッショナルPMの神髄』は大規模クラスのプロジェクトマネジャー(PM)を対象に、成功に必要な「技術」や「心得」などをまとめたものです。すべて著者の経験に基づいています。想定読者は、中規模クラスのプロジェクトマネジメント経験がある人です。そうした読者に、「一つ上のプロジェクトマネジメント」を身につけてもらいたいと考えています。

 「一つ上のプロジェクトマネジメント」というテーマを掲げた理由は大きく2つあります。1つは、ITプロジェクトが多様化し、マネジメントが難しくなっているからです。特にここ4〜5年の変化は大きく、例えばASPやパッケージを使ったり、アプリケーションというよりも基盤が中心になったり、新規開発というよりはほとんどメンテナンス開発が主だったりしています。王道的なやり方が通用しないプロジェクトが増加しており、プロジェクトの難易度が上がっているのは間違いありません。

 それはつまり、プロジェクトマネジメントの手法が非常に不安定になっているわけです。そうはいっても基本的なところは1本筋が通っていないと対応できません。だからまず基本スタンスを固めた上で、プロジェクトの特徴に応じてマネジメント手法をどう柔軟に対応していくかがポイントになります。

本屋に並んでいるPM本は中規模を想定している

 もう1つは、プロジェクトマネジメントに関する出版物が偏っているからです。これまでたくさんのプロジェクトマネジメント本を読んできましたが、そこで想定しているシステム規模は中規模クラスです。それは世の中にあるプロジェクトは中規模クラスが最も多いからだと思います。

 大規模や超大規模プロジェクトを経験した著者が思うには、中規模と大規模では求められるマネジメントスキルは大きく異なります。しかし、大規模クラスを想定したプロジェクトマネジメント本は、ほぼ無いのではないかと思われます。唯一、PMBOK は、大規模プロジェクトを想定していますが、もともと一般的なプロジェクト向けのため、ITプロジェクト向けとしては、十分とは言えないと考えています。

 実は、問題プロジェクトあるいは失敗プロジェクトと呼ばれているのは、大規模クラスのプロジェクトです。あるアンケート調査によると、中規模クラスのプロジェクトはほとんど失敗していなくて、大規模クラス以上の規模で失敗しているのです。にもかかわらず、書店に並んでいるプロジェクトマネジメントの本はほぼすべて中規模クラス向けで、大規模クラス向けのマネジメント手法は書いていません。

 プロジェクトが大規模になると、中規模と異なるマネジメント技術が必要になります。一番の違いは、簡単に言うと可視化です。大規模ではどうやってプロジェクトを見えるようにするかがポイントになります。また、大規模と中規模では、PM の視点が全く変わってきます。これまで中規模を経験してきた人であれば、「大規模は求められる技術も視点も違うんだ」と認識することから始めないといけません。

 話は変わりますが、日本のIT技術者の7割は、IT産業に従事しています。米国は、7割の技術者がユーザー企業に所属しています。真逆の関係にあります。さらに、日本のユーザー企業においては、IT部門の高齢化が進んでおり、ユーザー企業単独でのシステムの開発・維持が困難な状況になっています。また、IoT、AI によるビッグデータの活用、フィンテックの進展への対応という今後強化すべきさまざまなシステムへ対応していかなくてはなりません。

 これらを支えて行くのは、あくまでも日本においては、IT産業しか選択肢はないのです。書籍『プロフェッショナルPMの神髄』は、そういう状況を踏まえ、あえて、顧客側に立ったITベンダーとして、プロジェクトマネジャーを遂行する立場で基本的に書いています。

 中規模クラスしか経験していないPMから見たとき、大規模クラスのPMがしていることに対して、最初は「何でそんなことをするのだろう?」と疑問に思うかもしれません。そうしたことも、読み終わるころには「なるほど」と理解できるはずです。