データ分析に定評がある大阪ガスは、同分野の社員研修に力を入れる。グループ社員を含めて、のべ1000人以上が受講済みだ。2日間のデータリテラシー研修では、データ分析を実行する「前後」の工程に注目。分析の“設計図”を描き、利用するデータを事前にチェックする大切さを学ぶ。

 2014年5月23日と同29日の2日間、大阪ガスは「データ分析講習」を開催した。これは、同社社員だけでなく、グループ会社の社員まで対象にした、データリテラシーを高める研修である。両日には約30人が参加した。

 目的は大きく2つある。1つは、データから誤った判断を下さないようにすること。もう1つは、他人が実行したデータ分析の結果を鵜呑みにしないようにすることだ。データ分析は経営の意思決定に重要な役割を果たすが、一方で用いるデータや分析の条件、手法が少し変わるだけで結果が大きく変わる。意思決定を誤るリスクが付きまとう。そこで大阪ガスは、社員全員が“正しい”データ分析を理解しておく必要があると考え、データリテラシー研修に費用と時間をかける。

 何人ものデータサイエンティストを抱える大阪ガスはデータ分析の歴史が長く、勘所をつかんでいる。彼ら彼女らの経験を体系化し、一般社員もデータ分析を仕事に生かせるように社内教育に取り組んでいる。

 ただしこの研修は、よくあるエクセル教育などとは根本的に違う。表計算ソフトの使い方といった学習カリキュラムは別に設けており、この研修では力点を置かない。そうではなく、先述の2つの目的に沿って、実際にデータ分析の「実行前に踏むべきステップ」と「実行後の注意点」を理解してもらい、確実に遂行できる習慣を社員に身に付けてもらう(図1)。

図1●データリテラシー研修の概要。分析実行の前後を知る
図1●データリテラシー研修の概要。分析実行の前後を知る
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 というのも、データ分析は各自各様で、絶対的な正解が存在しない。実行した人によって、やり方も結果も違ってくる。そうした特性を踏まえ、大阪ガスではデータ分析の結果ではなく「プロセス」に注目した。研修を推進する、情報通信部企画管理チームの河村真一副課長は「データ分析はプロセスでしか正しさを評価できない。だから社員にも正しいプロセスを学んでもらう」と話す。河村副課長は大阪ガスのデータ分析集団である「ビジネスアナリシスセンター」を兼務しており、データ分析のプロセスの大切さを熟知している。その知見をこの研修にふんだんに盛り込んだ。

 大阪ガスが定義する分析のプロセスを知るのに、特別な統計知識や数学力は必要ない。記者も研修を体験したが、難しい話は一切なかった。

 研修は分析前に焦点を当てた前半と分析後の後半に分かれる。この記事では約240枚あるスライドの中から抜粋した8枚を見ながら、丸2日の白熱した研修をグループワークを含めて追体験できるようにした(写真1)。順に見ていこう。

写真1●グループワークの様子。概念図を描いてみる
写真1●グループワークの様子。概念図を描いてみる
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