世界中の企業が手本とする、トヨタ自動車のものづくり「トヨタ生産方式」。その真髄は必要なものを必要なときに必要なだけ作る・運ぶ「JIT(ジャスト・イン・タイム)」にある。トヨタは工場でJITを突き詰め、在庫を極力持たなくても、顧客にタイムリーに車を提供できる唯一無二の仕組みを作り上げた。

 トヨタの工場から出荷された車両が、三好ヤード、そして高岡新点センターに移動すると、そのたびに車両に付与した「車両タグ」と、駐車スペースに埋め込んだ「ロケタグ」を携帯端末(iPod touch)で読み取り、車両と駐車位置(ロケ番地)をひも付ける。さらに車両が高岡新点センター内の各工程を通過するたびに、天井などに取り付けたRFIDリーダーで車両タグを読み取り、どの車両が今どこにあるのかをトラッキングしている。

 こうして車両とロケ番地をひも付けた情報を集め、トヨタ独自のクラウド上に構築したシステム「TDIS(トヨタデリバリー情報システム)」で一元管理する。その内容は、高岡新点センターの随所に置かれた大型モニターなどで確認できる。NTPグループの販売店物流全体を一覧表示することもできるし、車両を載せた積載車がどこを移動中かをGPS(全地球測位システム)と組み合わせて追跡することも可能だ。

TDISの画面例。NTPグループにおける車両の工場出荷から納車までの流れを確認できる
TDISの画面例。NTPグループにおける車両の工場出荷から納車までの流れを確認できる
[画像のクリックで拡大表示]
写真撮影:北山 宏一

 各工程では、特定工程の作業進捗情報も出せる。例えば、付帯の現場には「付帯工程モニター」があり、その日の作業計画と実績、進捗や遅れなどが1台ごとに分かる。もしも付帯部品の欠品などで作業遅れや異常が発生した場合、車両の表示の色を赤などに変えて警告を発する。

●付帯工程モニターで作業の進捗を車両1台ごとに確認できる
●付帯工程モニターで作業の進捗を車両1台ごとに確認できる
[画像のクリックで拡大表示]

 最近は車両の販売店オプションが増え、その準備と取り付けが車両の滞留を生み、納期遅れの原因にもなっていた。トヨタはそこにメスを入れた。部品の種類が増えれば、欠品も起きやすい。付帯工程モニターでは異常が起きている車両ごとに詳細を閲覧できる。欠品している部品名や現在の発注状況、納入予定を担当者が確認。該当車両は部品待ちのまま作業を中断するか、それとも納期を考慮して先に車両を流し、後で部品を取り付けるかを判断する。

新点ラインに車両が投入されるとRFIDの情報に基づき、その車両に取り付ける用品をAGVで1台ずつJIT供給する。以前は新点ライン側に60台分の在庫が滞留していた
新点ラインに車両が投入されるとRFIDの情報に基づき、その車両に取り付ける用品をAGVで1台ずつJIT供給する。以前は新点ライン側に60台分の在庫が滞留していた
[画像のクリックで拡大表示]
写真撮影:北山 宏一

 TDISには車両が工場を出てから顧客に納車されるまでの情報が全て、リアルタイムで集まる。そのため販売店のタブレットからTDISにアクセスすれば、顧客1人ひとりに正確な情報提供もできる。「先ほど生産が完了しました」「点検作業が終わったところです」など、顧客に最大10段階で納期回答が可能だ。

 名古屋トヨペットは携帯電話番号だけで顧客とやり取りができるSMS(ショートメッセージサービス)を積極的に使い、JITで案内メールを出す。特に納車が遅れそうなときは「少しでも早いタイミングで納期遅れを伝えている」(名古屋トヨペットの寺田伸一業務改善部長)という。