世界中の企業が手本とする、トヨタ自動車のものづくり「トヨタ生産方式」。その真髄は必要なものを必要なときに必要なだけ作る・運ぶ「JIT(ジャスト・イン・タイム)」にある。トヨタは工場でJITを突き詰め、在庫を極力持たなくても、顧客にタイムリーに車を提供できる唯一無二の仕組みを作り上げた。

 JITがトヨタの強みであることは今さら言うまでもない。ところがひとたび車両が工場を出ると、そこにはまだ大きな無駄が残されていた。

 「JITって、工場の中だけの話でいいのか。車両が工場を出て販売店のヤードに運ばれ、そこで何カ月も滞留している。これって何だろう。そこに素朴な疑問があった」

 トヨタの現・社長である豊田章男氏は今からちょうど20年前、そう感じたという。そこで立ち上げたのが「TSL(トヨタ販売物流改善)」。要は販売店の物流改革だ。

 そのTSLがここ2年で劇的な進化を遂げた。キーワードはズバリ、IoT(モノのインターネット)。トヨタは独自の仕組みであるJITにIoTを融合し、販売店物流に革命を起こそうとしている。

 トヨタは改善意欲が高い販売会社と「TSL自主研」と呼ぶ勉強会を重ねてきた。そして今回、自主研メンバーの一社である名古屋トヨペットの現場を“道場”として、JITとIoTの融合を現実のものにした。

JITにIoTを組み込む壮大な実験

 ここで紹介する最新のTSLの全貌を理解する前に、まずは販売店物流のフローを頭に入れておく必要がある。下の図は愛知県内に66店舗を構える名古屋トヨペットなど、複数の自動車販売会社を抱えるNTPグループ(持株会社はNTPホールディングス、名古屋市熱田区)における販売店物流の全体像だ。

●名古屋トヨペットなどを抱えるNTPグループの販売店物流のフローとTSLの対象領域
●名古屋トヨペットなどを抱えるNTPグループの販売店物流のフローとTSLの対象領域
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 トヨタの工場から出荷された車両は、NTPが用意する車両の一時保管場所である「三好ヤード」に運ばれ、在庫される。そのうえで各車両は顧客の納車日に合わせて、10km離れた「高岡新点センター」に積載車で順次移動される。

 新点とは聞き慣れない言葉だが、顧客に納車する前の新車点検を意味する。高岡新点センターでは顧客ごとに異なるアクセサリーパーツなどの部品を取り付け、最終の品質チェックをして、最後にボディコートを施す。これらの作業を順に「付帯」「新点」「QMI」と呼び、全ての工程を通過して、晴れて各販売店に納車されるという流れになっている。

 こうした一連のプロセスを1つずつ精査し、それぞれのリードタイムを1秒でも短くするのが今回の狙いだ。それを可能にしたのが、IoTを構成する最新のITツール群である。

 結果として名古屋トヨペットは、これまで顧客の配送希望日を順守するのに必要な最短の配送リードタイムとして6日を要していたのを4.5日まで減らすことに成功した。販売店によっては同4日を達成しており、全店での実現が当面の目標だ。