某製造業の現役IT担当者がIT部門消滅の実体験を基に、新たなIT部門の在り方を提起する連載の第9回。今回は、一人でシステムを運営するために、著者が自らに課した基本方針や行動指針、そして技術やスキルを高めるのに有益な方法などを紹介する。ひとり情シスかどうかにかかわらず、日々エンジニアとして自らを高め「何でもやる多能工」になることが、これからのエンジニアの生きる道だと説く。

 衰退したIT部門に所属し、仕事に疲弊したエンジニアでも、気持ち改め、諦めずに自分のスキルを高めていけば道は開ける。「何でもやる多能工」こそがエンジニアの生きる道ではないかと、この連載を通じてお伝えしてきた。では、そこそこの技術知識を学び、システムをゼロから内製できるようになり、私と同じ事をすれば、IT部門をうまく回せるかと言われると、残念ながらそれだけでは足りないだろう。

 これまでの連載で紹介した内容は、私の会社での成功事例の一部である。それが他の会社で同じようにうまくいくとは限らない。IT部門衰退の問題は、今まで誰も答えが出せなかったくらい根が深い。「こうしたらうまくいく」といった単純なことで解決するはずがない。

自分なりの基本方針と行動指針が必要

 企業ごとに異なるIT環境、人や組織、企業文化、経営者の思想や経営状況などを考慮しながら最適と思われる手段を模索する必要がある。そのうえで、ぶれない目標、基本方針、行動指針を持つことで、一貫性のある行動が継続され、それが大きな力となる。まずは自分自身の基本的な考え方をしっかり持つ必要がある(図1)。

図1●「何でもやる多能工」になるには、まず目標や基本方針が必要
図1●「何でもやる多能工」になるには、まず目標や基本方針が必要
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 私は、一人で業務を回すために、次の3つを意識して取り組んできた。「仮想化」「標準化」「先読み対応」である。これは消滅前のIT部門では、できなかったことである。以前のIT部門を反面教師にすることが一番手っ取り早く、効果も高いと考え、それを基本方針にしたのだ。難しい話ではないが、少し補足する。

 「仮想化」は一般的には、サーバーやネットワークの仮想化をイメージするだろう。私はもう少し範囲を広げている。例えば紙で運用している業務をシステム化したり、埋もれたデータを活用できる状態にしたりすることなども含めている。要するに、バーチャルの世界に引き込み、容易にコントロール可能な状態にすることである(図2)。ちなみに紙での運用を単にExcelでの運用にしただけではバーチャル世界に引き込んだことにはならない、それは単なる電子ファイル化しただけである。

図2●バーチャルの世界に引き込めば自動化が容易に
図2●バーチャルの世界に引き込めば自動化が容易に
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 「標準化」はそのままの解釈でよい。まず標準化をしないと、効率化や自動化の段階には進めない。「2割の例外が工数全体の8割を占める」という法則もあるようだが、以前のIT部門は感覚的には4割以上が例外だった気がする。だから大勢がいくら残業しても時間が足りなかったのだろう。ユーザーの要望をそのまま受け入れることを繰り返してきたため、ユーザー都合の例外処理が増えてしまったのである。

 「先読み対応」は常に先の事を考えて、今の対策を打つということ。私は先の先まで意識するようにしている。以前のIT部門は、今の業務を回すことで精一杯だったために、先の事を考える余裕すらなかった。そのために何事も後手後手になり、それがトラブルをさらに悪化させ、忙しさが一層増すという悪循環に陥っていた。「この先、こんなことになりそう」と考え、少しでも先手を打つなり保険をかけることができれば、被害の拡大を食い止められるのである。