10人いたIT部門が消滅した製造業で、一人残されたIT担当者の奮闘を描いた「ひとり情シス顛末記」。その実話の著者が読者からの質問・批判に答えてきた“セカンドシーズン”の連載も今回がいよいよ最終回だ。最後は、著者の思いのたけに熱く記してもらった。「みんな、多能工エンジニアになろう!日本を変えられるかもしれないぞ」

 この先の期待も込めて、個人的な未来予想を述べて、ひとり情シス顛末記の“セカンドシーズン”の連載を終わりにしたい。未来予想と言っても、私の中では実現の可能性はかなり高いと信じている。ここ最近、トレンドの変化を感じているからだ。

 ユーザー企業のIT部門の衰退はそろそろ、底を打ちそうな気がする、もしかしたら、IT部門を衰退させる原因となった長い景気低迷期は、バブル期に抱えすぎた古いお荷物を捨てさせるための重要な期間だったのかもしれない。ひとり情シス(兼任や少人数も含む)を前提としたサービスも最近、急に目立つようになってきた。エンジニア不足の時代における中堅中小企業の現実解がようやく理解されるようになった、と勝手に思っている。

 ITは今後も進化と適用領域の拡大を続ける。その結果、どんな企業でもITの活用を迫られる。同時にセキュリティなどのリスク対策や、IT統制の重要性は増すばかりだ。景気回復の足取りはおぼつかなく、企業のIT予算の伸びが見込めない中、IT機器やソフトウエアライセンスの負担は増加している。分業化や専門職化が進んだ大所帯のIT部門は、今や大企業ですら大きな負担だ。抜本的な解決策が見当たらず、今日に至るまでIT部門は衰退を続けてきた。

 極限まで衰退してしまったIT部門は、独力での復活は困難である。ただし、あくまでも「これまでのやり方では」との前提があっての話だ。IT進化の恩恵を積極的に受け、これまでのやり方にこだわらなければ、たった一人でもIT環境の立て直しが可能になったことが、私のひとり情シスの取り組みで証明されたと思う。

1分で分かる「ひとり情シス顛末記」あらすじ
  • ピーク時には10人いたIT部門が消滅、著者も他部署に異動になり、居候状態で200台のサーバーを一人で管理することに
  • 企業のIT環境がこんな状況では良くないと考えた著者は、IT部門の復活を期して経営への提言を行おうとするが、情報は経営に上がらず、二度の直訴も失敗
  • 「ひとり情シスでやる」と意を決した著者は、まず老朽化した200台のサーバーを仮想化して管理可能状態にした。
  • 続いて、ITベンダーに丸投げしていた基幹システムのうち、データベースの管理を取り戻し、データガバナンスを確立。
  • さらに業務部門の要望に応え、業務システムの内製化にも取り組み、基幹システムのデータや業務部門に埋もれているデータを有効活用できるようにするとともに、データの一元管理をさらに推進した。
  • こうした取り組みにもかかわらず、ITや著者に対する意識や評価は変わらなかった。
  • 人間ドックで病気が発覚、著者は手術と入院で3カ月間にわたり出社できない事態になったが、社内のシステムは止まることなく、業務に影響を及ぼすような大事に至らなかった。
  • ただ、ひとり情シスのリスクを実感した会社は、IT担当者を新たにアサインし、長かったひとり情シス状態から脱却することになった。

 少子高齢化が進み、エンジニア不足が深刻になり、IT業界も就職先としてどんどん不人気となっている。こうした人材確保の面で最悪な状況は、エンジニアから見ると売り手市場であることを意味する。実際に、IT系のエンジニアの求人倍率は、他の業種と比較しても圧倒的に高い。ただし、「不足しているのは優秀な人材だけ」とITベンダーのエンジニアが話していた。エンジニアは浮かれていてはいけない。ITゼネコンのピラミッドの捨て駒に陥らないよう、十分に注意する必要がある。