IT部門が消滅し、一人残されたIT担当者の奮闘を描いた「ひとり情シス顛末記」。この実話の当事者である著者が、読者から質問に答える。この連載もいよいよ大詰めだが、今回のテーマは「モチベーション」。社内の評価が得られないひとり情シスで、著者はなぜ前向きなのか、なぜ毒を吐かずにいられるのか。その秘密を聞く。

読者の質問・批判

 社内の理解が得にくいIT部門に長くいると、モチベーションの維持が難しくなるときがある。ましてや、ひとり情シスでいくら成果を出しても評価されないとすると、成瀬氏はいったいどうやってモチベーションを維持しているのだろうか。逆に不安感にさいなまれることはないのか。私が成瀬氏の立場なら、居酒屋で毒づくことはできても、前向きな気持ちにはとてもなれそうにないが。

 私自身に対する質問の中では、「なぜモチベーションを維持し続けることができたのか」といった問いが多かった。私自身、モチベーションを意識して行動をしていたわけではなく。とにかく必死だったというのが本音である。そして何より、サーバーやインフラ、システム開発など、自分の手で作り上げるのが好きで、楽しかったことが頑張れた一番の理由であろう。

 ITベンダーにいたころから不安に思っていたことがある。それは、歳を取ったときに何もできなくなってしまうことの怖さだ。会社にしがみつくことしかできなくなり、リストラ対象となってしまうことが怖かった。実際にそういう人を何人も見てきたからかもしれないが、何もできなくなってからでは遅い。それが、何でも自分でやりたいという気持ちにつながっているのかもしれない。管理職には向かない性格である。

 評価が伴わない中で、どうやってモチベーションを維持してきたのか不思議に思えるかもしれない。確かに評価が給与に影響するのは気になるが、忙しさからそんなことを考えている余裕はあまりなかった。また、残業代は忙しい分、きちんと出ていたので、評価されなくても給与減の影響は相対的に小さくなっていた。

1分で分かる「ひとり情シス顛末記」あらすじ
  • ピーク時には10人いたIT部門が消滅、著者も他部署に異動になり、居候状態で200台のサーバーを一人で管理することに
  • 企業のIT環境がこんな状況では良くないと考えた著者は、IT部門の復活を期して経営への提言を行おうとするが、情報は経営に上がらず、二度の直訴も失敗
  • 「ひとり情シスでやる」と意を決した著者は、まず老朽化した200台のサーバーを仮想化して管理可能状態にした。
  • 続いて、ITベンダーに丸投げしていた基幹システムのうち、データベースの管理を取り戻し、データガバナンスを確立。
  • さらに業務部門の要望に応え、業務システムの内製化にも取り組み、基幹システムのデータや業務部門に埋もれているデータを有効活用できるようにするとともに、データの一元管理をさらに推進した。
  • こうした取り組みにもかかわらず、ITや著者に対する意識や評価は変わらなかった。
  • 人間ドックで病気が発覚、著者は手術と入院で3カ月間にわたり出社できない事態になったが、社内のシステムは止まることなく、業務に影響を及ぼすような大事に至らなかった。
  • ただ、ひとり情シスのリスクを実感した会社は、IT担当者を新たにアサインし、長かったひとり情シス状態から脱却することになった。

 IT部員が徐々に削減されるなか、減員の分を補わなければいけなくなり多忙を極めるようになっていった。「こんなのやってらんねぇ」となりそうだが、役割と範囲が拡大し、これまで見えなかったものが見えてきたことで、楽しくなっていく自分もいた。役割と範囲の拡大で効率化や自動化もやりやすくなり、成功体験が増えていったことも頑張れる要因になった。

 居候の身でIT部門を再建しようとしたときに、情報が上がらず組織やしがらみに苦悩した時期もあった。朝起きると会社に行きたくないという気持ちになることもあったが、エンジニアとしての仕事は楽しく夢中になれたので、不思議な感覚の中、会社に通っていたときもあった。これが管理職の仕事だったらどうなっていただろう。想像するのも怖い。