IT部門が消滅し、一人残されたIT担当者の奮闘を描いた「ひとり情シス顛末記」。この実話の当事者である著者が、読者から質問に答える。今回はなかなかタッチーな問題、ひとり情シスの担当者の判断は本当に正しいのかについて語る。もし担当者が悪意を持ったらどうなる。当事者である成瀬氏には答えにくい疑問だが、回答やいかに。

読者の質問・批判

 ひとり情シスでは、全ての事を自分一人で判断しなければならないから、プレッシャーも大きいはずで問題を先送りにしたくなる時はないのか。技術面で相談する相手がいないのは辛い。判断に迷った時、成瀬氏はどうやって決断しているのだろうか。それと、こう言っては失礼だが、ひとり情シスが全権を持ち相互牽制が働かないのは、企業にとって大きなリスクに思えるが。

 一人で作業をしていると、自分の判断が正しいか悩むことが多い。だからこそ多くの情報が必要になる。「自分が行っている事が正しいか迷わないか」「技術的に相談したい場合は」といった判断の正しさなどについて考えてみる。

 自分の判断が正しいかという疑問は常に持っている。しかし、技術的な領域で社内に相談できる人はいない。多くはインターネットで得られる情報に頼ることになる。これまで関わってきたITベンダーのエンジニアなどに聞くこともあるが、営業担当者は大抵、商売っ気を出してくるので、あまり参考にならないことが多い。

 ITベンダーのエンジニアにヒントをもらう時も、ある程度自分なりに考えて理論武装して臨む。そうしないと、ただでさえ忙しいITベンダーのエンジニアの負担になってしまう。「どうしたらいい?」ではなく、「私の考えはこうだが、他の会社はどうしているのか。あなたの考えはどうか」などと聞いて、負担にならない程度のヒントをもらう。ひとり情シスである以上、何かあっても最後は自分が尻拭いすることになるため、それを前提に自分で判断を下している。

 余談だが、最近はITベンダーにも優秀なエンジニアが少なくなったように感じる。ひょっとしたら、優秀な人はあまり前に出てこないようなったのかもしれない。儲からない中堅中小企業が敬遠されている可能性もある。

1分で分かる「ひとり情シス顛末記」あらすじ
  • ピーク時には10人いたIT部門が消滅、著者も他部署に異動になり、居候状態で200台のサーバーを一人で管理することに
  • 企業のIT環境がこんな状況では良くないと考えた著者は、IT部門の復活を期して経営への提言を行おうとするが、情報は経営に上がらず、二度の直訴も失敗
  • 「ひとり情シスでやる」と意を決した著者は、まず老朽化した200台のサーバーを仮想化して管理可能状態にした。
  • 続いて、ITベンダーに丸投げしていた基幹システムのうち、データベースの管理を取り戻し、データガバナンスを確立。
  • さらに業務部門の要望に応え、業務システムの内製化にも取り組み、基幹システムのデータや業務部門に埋もれているデータを有効活用できるようにするとともに、データの一元管理をさらに推進した。
  • こうした取り組みにもかかわらず、ITや著者に対する意識や評価は変わらなかった。
  • 人間ドックで病気が発覚、著者は手術と入院で3カ月間にわたり出社できない事態になったが、社内のシステムは止まることなく、業務に影響を及ぼすような大事に至らなかった。
  • ただ、ひとり情シスのリスクを実感した会社は、IT担当者を新たにアサインし、長かったひとり情シス状態から脱却することになった。

 そう言えば、以前一緒に仕事をしたITベンダーのエンジニアの中にも、今は管理職となってしまい、技術の前線から一歩引いた位置にいる人が多くなってきた。私の会社でIT投資が抑制され、外部委託の機会が減ったことも、外部のエンジニアとの接点が少なくなった理由だ。そのため以前は、「この先、聞く人がいなくなったらどうしよう」と危機感は持っていた。

 しかし、こう言って失礼だが、ITベンダーのエンジニアのアドバイスは、事前にインターネットで集めた情報を比較して大差がなくなってきた。インターネットの情報量は膨大で、検索エンジンも日々賢くなっている。以前はなかなか有益な情報にたどり着けなかったが、最近は簡単に情報を得ることができるようになってきた。この先もっとインターネットの情報が探しやすくなるはずなので、ITベンダーのエンジニアとの接点が減っても、何とかなるかもしれない。