10人いたIT部門が消滅し、たった一人で全社のIT環境を立て直した「ひとり情シス顛末記」では、著者に対して読者から驚きと賞賛の声が上がる。一方で、大きな成果を出した著者が社内で何の評価も得られていないと知り、読者からは「それじゃ、つらすぎる」との声が上がる。そんな“同情”の声に対して、著者は何と答えるのか。

読者の質問・批判

 ひとり情シス顛末記を愛読させてもらったが、成瀬氏はどうやってモチベーションを維持しているのか疑問を感じている。いくら成果を出しても、それが報酬につながらないどころか、全く評価されないなら、つらすぎる。10人もいたIT部門の仕事を一人で担っているわけだから、本来なら10倍報酬をもらってもよいはずだ。成瀬氏の文章にも評価されない無念さがにじみ出ていると思うのだが。

 以前は「ここまで一人でやって成果を出しているのに、なぜ評価されない」という考えを持っていた。「今は無い」と言ったら嘘になるが、評価を考えても仕方がないと諦めている。質問にもあった評価や報酬について考えてみる。

 評価は誰でも気になるところであろう。人は誰しも認められたいという承認欲求を持っている。認められることで、それが次の力につながるのだ。終身雇用と年功序列の中、 れらしい「成果主義」という評価報酬制度を導入している企業も多いだろうが、本来の目的が機能している企業はどのくらいあるのだろうか。

 本来、高い成果や生産性を出すための評価制度だったにもかかわらず、評価を下げたくないという気持ちが目標を下げるという逆の行動につながっている。流動性が低い日本の特殊な雇用制度の中で、成果主義だけ海外の真似をしたところでうまくいくはずがない。

1分で分かる「ひとり情シス顛末記」あらすじ
  • ピーク時には10人いたIT部門が消滅、著者も他部署に異動になり、居候状態で200台のサーバーを一人で管理することに
  • 企業のIT環境がこんな状況では良くないと考えた著者は、IT部門の復活を期して経営への提言を行おうとするが、情報は経営に上がらず、二度の直訴も失敗
  • 「ひとり情シスでやる」と意を決した著者は、まず老朽化した200台のサーバーを仮想化して管理可能状態にした。
  • 続いて、ITベンダーに丸投げしていた基幹システムのうち、データベースの管理を取り戻し、データガバナンスを確立。
  • さらに業務部門の要望に応え、業務システムの内製化にも取り組み、基幹システムのデータや業務部門に埋もれているデータを有効活用できるようにするとともに、データの一元管理をさらに推進した。
  • こうした取り組みにもかかわらず、ITや著者に対する意識や評価は変わらなかった。
  • 人間ドックで病気が発覚、著者は手術と入院で3カ月間にわたり出社できない事態になったが、社内のシステムは止まることなく、業務に影響を及ぼすような大事に至らなかった。
  • ただ、ひとり情シスのリスクを実感した会社は、IT担当者を新たにアサインし、長かったひとり情シス状態から脱却することになった。

 しかもIT部門が衰退しているような環境では、ITエンジニアを評価できるはずがない。実際にIT部門が存在したころは、それなりの成果を認めてもらい、評価もそれなりに得られていた。しかし、IT部門から人が減り、上層部との接触が弱くなり、IT部員を理解する人がいなくなるにつれ評価が下がっていった。ひとり情シスになったときは、もはや好き嫌いでしか評価されていないんじゃないかと思うこともあった。残念ながら、自分の価値を評価してもらえる制度ではないことが分かった。