10人もいたIT部門がまさかの消滅。たった一人のIT担当者となった著者が、IT開発・運用体制の再確立に挑んだ。ある製造業で実際に起こった出来事をベースに、企業のIT環境やエンジニアの在るべき姿を模索する「ひとり情シス顛末記」。大反響があった連載のセカンドシーズン(第2弾)では、読者アンケートで寄せられた質問・批判のうち、代表的なものに著者が正面から答える。まずは、この質問・批判からスタート。

読者の質問・批判

「ソロインテグレータだか何だか知らないが、成瀬氏のようなスーパーエンジニアでないと、ひとり情シスはどだい無理だ。たまたま成瀬氏がいたから上手くいっただけ。成瀬氏の後は誰がやるのか。後継者を育成できず仕事を引き継げないのに、ひとり情シスを賞賛するのは無責任ではないか」

 ひとり情シスの話をしたとき、よく言われることがある。「一人はまずいんじゃないか」そして「引き継ぎや育成はどうするのか」である。アンケートの質問でも一番多かったのが引き継ぎや育成に関する事であった。「どうやって引き継ぐのか」「そんな人材を育てるのは不可能だ」という皆さんの疑問・批判について考えてみる。

 引き継ぎについてであるが、私の会社のサーバー環境を引き継ぐのはそう難しくはないだろう。250台のサーバー数にビビる必要はない。すでに仮想化統合済みで、一人で回せるように自動化や簡素化などを実現しているからである。病気で3カ月以上不在となっても何とかなったくらいである。

 誤解している人もいるかもしれないが、私は10人分の作業を一人でやっているわけではない。10人でやっていた事(10人分の仕事ではない)を、一人でできるぐらいに負荷を減らし、一人で対応しているだけである。だから一人で回せて当たり前、それを引き継げて当たり前である。内製した業務システムもシンプルに作ってあるので、ちょっとした改造や機能追加程度であれば、プログラミングレベルがそれほど高くない人でも、十分引き継げるだろう。

1分で分かる「ひとり情シス顛末記」あらすじ
  • ピーク時には10人いたIT部門が消滅、著者も他部署に異動になり、居候状態で200台のサーバーを一人で管理することに
  • 企業のIT環境がこんな状況では良くないと考えた著者は、IT部門の復活を期して経営への提言を行おうとするが、情報は経営に上がらず、二度の直訴も失敗
  • 「ひとり情シスでやる」と意を決した著者は、まず老朽化した200台のサーバーを仮想化して管理可能状態にした。
  • 続いて、ITベンダーに丸投げしていた基幹システムのうち、データベースの管理を取り戻し、データガバナンスを確立。
  • さらに業務部門の要望に応え、業務システムの内製化にも取り組み、基幹システムのデータや業務部門に埋もれているデータを有効活用できるようにするとともに、データの一元管理をさらに推進した。
  • こうした取り組みにもかかわらず、ITや著者に対する意識や評価は変わらなかった。
  • 人間ドックで病気が発覚、著者は手術と入院で3カ月間にわたり出社できない事態になったが、社内のシステムは止まることなく、業務に影響を及ぼすような大事に至らなかった。
  • ただ、ひとり情シスのリスクを実感した会社は、IT担当者を新たにアサインし、長かったひとり情シス状態から脱却することになった。

 「では、あなたは不要ですね」と言われそうであるが、その通りである。ただし、それは通常のシステム運用面での話。もともと私自身が運用を担当するつもりは無かったので、運用作業は極力排除、もしくは効率化するつもりだった。そうでなくては、この先の変化に対応する時間を確保できない。実際、運用作業を省力化したことにより、負担が減ったため、“ついでに”運用もやっているような感じである。