技術やアイデアを企業の枠を超えて持ち寄り、革新的な商品やビジネスモデルなどを生み出すオープンイノベーションは、ビジネスの変革に欠かせない。米国の非営利団体e-NABLE(イーネイブル)の活動はその一例だ。

 e-NABLEは、障害がある子供のために3Dプリンターで製作した義手を提供する。この活動は、事故で指を失った南アフリカの職人と、米国在住のロボット技術者が協力し、3Dプリンターで作成可能な義手の設計書と作成手順書をインターネットにオープンソースとして公開したことから始まった。インターネットを通して世界中の人が義手製作に必要な知識や技術を持ち寄り、共有し、改良を重ねた。障害がある子どもを助けたいという世界各地の熱意ある人を非営利組織としてまとめ、エネルギーを集結させ、不可能だと思われたプロジェクトを可能にした。

開発コミュニティーの大会に世界60カ国から7500人が参加

 e-NABLEの活動は示唆に富む。ユーザーが設計者になり、コミュニティーでその役割を果たすオープンソースの開発モデルは、イノベーション創出に貢献できる。ITの世界でも、OSS(オープンソースソフトウエア)のクラウド基盤、OpenStackがコラボレーションの重要性を物語る。ひと握りの開発者が2011年に立ち上げたOpenStackの開発コミュニティーは2016年に4万人まで拡大、開発コミュニティーのイベントには世界60カ国から7500人以上が集まる。

 企業の枠を超え、世界中の開発者が対等な立場で協力し合い、ソフトウエアのイノベーションを実現した結果、OpenStackは国際機関や世界的な大企業などがミッションクリティカルな基幹系システムに利用している。今や特定企業の研究開発部門だけではソフトウエアの開発は難しく、「オープンソースでなければ技術革新は生まれない」といわれる。

 レッドハットは、ソフトウエアのイノベーションの加速を使命にOSSの開発コミュニティーに積極的に関与し、ソフトウエア開発者のコラボレーションの支援を続ける。開発コミュニティーで生まれた革新的なソフトウエア技術を製品化し、ミッションクリティカルな業務システムで利用できるようにサービスや保証を付けて企業や官公庁などに届けてきた。

 世界には100万を超えるOSSの開発プロジェクトがあるといわれ、レッドハットはその中からユーザーにとって価値あるものを選び、約5000のプロジェクトに参画する。Linux、仮想化、クラウド、ストレージ、システム管理など幅広い領域で、当社の技術者が開発コミュニティーと一緒になって開発を進めている。

 コラボレーションが果たす役割は一段と大きくなる。アマデウスのケースはその象徴だ。世界で発券される航空機チケットの95%以上がアマデウスの中継システムを通して予約されている。

レッドハットの特徴
レッドハットの特徴

OpenShiftで基盤とアプリを分離
データセンターをリソースプールに

 アマデウスでは、以前、インフラとアプリケーションのチームが別々にサイロ型でシステムを構築・運用してきたため、インフラのチームがユーザー数の増大に対応してシステムの増強を考えても、アプリのチームが対応できなかった。また、アプリのチームが機能を改修し、投入を計画してもインフラのチームの対応が遅れ、計画に間に合わないことがあった。

 その解決策として、アマデウスは開発チームと運用チームが連携できるようにアマデウスアカウント・サービスと呼ぶDevOpsプラットフォームをレッドハットのクラウド型アプリ開発実行基盤、OpenShift Enterprise 3上に構築し、OpenShiftの基盤環境(PaaS)とアプリ(SaaS)を分離し、データセンターを1つの大きなリソースプールとして利用可能にした。

 このシステムはRed Hat Enterprise Linux上に構築しており、LinuxベースのセキュアOSであるSELinux機能を備えたOpenShiftはDockerコンテナに必要なセキュリティを提供している。アマデウスとレッドハットの技術者が共同で環境構築に携わることで、企業で利用するための実践的な機能やその実現性に関して、OpenShiftsの開発コミュニティーとその情報を共有し、数々のフィードバックや新しいアイデアの実装を得られた。その結果、先進的で高度なプラットフォームを驚くほど短期間に構築できた。

 OpenShiftは世界中で使われ、日本企業もアプリケーション開発環境に利用し始めている。レッドハットはOpenStack、OpenShiftのようにクラウドの分野にとどまらず、IoT/ビッグデータ、アプリケーションモダナイゼーション、モバイル、オートメーションという5つの分野でOSSを提供する。OSSの完成度をさらに高め、ミッションクリティカルな環境で利用できる製品の提供に今後も力を注ぐ。

 “Future is Open”、今まさにOSSがオープンイノベーションを加速し未来を創造する時代が到来している。