「2045年」。この頃に何が起きるといわれているかご存じだろうか。AI(人工知能)が人間の能力を超えるシンギュラリティー(技術的特異点)の年だといわれている。これは、レイ・カーツワイル氏が2005年の著作『The Singularity IsNear』で述べたことが基になっている。実は今年3月に米国を訪問した際、彼と会う機会を得た。彼はAIをはじめとするIT関連のテクノロジーが指数関数的に成長すると指摘している。実際、AIが将棋や囲碁で人間に勝利し、小説の執筆や作曲まで手掛けるようになってきている。

 テクノロジーの進化は、スペインで建築中のアントニオ・ガウディの有名な教会建築サグラダ・ファミリアにも影響を与えている。1882年の着工から完成に300年かかるといわれていた。最近になって2026年、つまりあと10年で完成するというのだ。3次元CADや3Dプリンター、CNC加工機などが使えるようになったことが大きな理由だ。

ITを駆使するスタートアップ企業が価値破壊を起こし始めている

 もちろん、企業経営もテクノロジーの進化によって大きく変わる。配車サービスのUberや民泊サービスのAirbnbのように、スタートアップ企業が既存のビジネスの価値破壊を起こし始めている。こうした動きは、Uberの名前を取って「ウーバライゼーション(Uberization)」と呼ばれている。

 金融業界でこのような変革をもたらすかもしれないサービスは、海外送金をオンラインでマッチングする「トランスファーワイズ」というサービスだ。海外送金には、送金側銀行の手数料、通貨両替の手数料、さらに受取側銀行の手数料と、様々な手数料が発生する。トランスファーワイズはこうした手数料を削減するサービスだ。例えば、海外送金したい人と、逆方向に送金したい人をマッチングし、それぞれの国でトランスファーワイズの口座を介して取引を相殺する。

 金融業界では、テクノロジーを駆使して新たなビジネスモデルを構築する動きを「フィンテック」と呼んでいるが、他の業界でも同様のことが起こっている。小売業界では「リテールテック」、医療業界の「メディテック」、農業の「アグリテック」。様々な産業において「xTech」と呼ばれる動きが加速している。業界全体の事業規模から考えると、当初は小さな動きに見えるかもしれない。しかし、微細な取り組みが、やがて大きな変化をもたらすバタフライ効果が、ビジネスの世界でも起こりつつあるのだ。

膨大なデータからIntelligenceを生み出すには?
膨大なデータからIntelligenceを生み出すには?

経営判断をするには、データからインテリジェンスへ昇華させる

 こうした経営環境の中では、社会や顧客の微細な変化を捉えてスピーディーに意思決定を下すことが大切だ。それにはビッグデータを活用して、膨大な事実から自分の目的に沿ったインテリジェンスを導き出す必要がある。

 我々が何らかのアクションを起こすとき、どのようなプロセスで意思決定しているだろうか。初めはどういう事実があるのかを知るためにデータを集める。ただし、いくらデータを集めても、それだけでは意味がない。

 次に、データに基づいてインフォメーションを導き出す。膨大なデータから自身の目的に応じたフィルターを通して吸い上げたり、加工したりする。その成果物がインフォメーションだ。

 インフォメーションだけでは行動には結びつかない。例えば、企業がM&Aするケースを想定しよう。M&A対象の企業活動のデータは様々あるが、それらを加工して成長率や利益率、市場シェアなどのいわゆる企業評価がインフォメーションとなる。インフォメーションを基に自社の哲学や過去のM&A経験など、特定要素を重視して最終的な判断につながる。インテリジェンスとは、インフォメーションの中からある種のフィルターを通して得た情報であり、これが行動を決める。データからインテリジェンスまで昇華させるためには触媒となるフィルターが重要で、これがITの役割だ。

 これら昇華のプロセスが、その気になればどんな企業でも以前より容易に実現できるようになった。インターネットを介して膨大なデータを入手し、さらに、データを分析するテクノロジーも進化した。ビッグデータの主役は非構造化データだが、これを分析するソリューションが充実してきたのだ。

 最後に、NTTデータが毎年まとめているリポート「NTT DATA TechnologyForesight」から2016年の情報社会トレンドを紹介しよう。今年は次の4つのトレンドを予想した。(1)個の影響力拡大が社会の変革を促進する、(2)オープンな連携が新たな社会の仕組みを生み出す、(3)進化する価値が既成概念の転換を促す、(4)フィジカルとデジタルの融合が持続性と迅速性をもたらす──という4つだ。