我が国の刑法犯認知件数は、2002年をピークに減少に転じ、2015年には戦後最低を記録した。防犯カメラや防犯パトロールなどによる抑止力の効果が表れた結果だ。

 しかし、刑法犯が減っているにもかかわらず、世の中の人たちの体感治安は良くなっていない。内閣府の調査では、治安が良い方向に向かっていると思う人の割合は約2割にとどまっている。

 この背景には、高齢者や女性、子供などの体力的に弱い人を狙った「身近な犯罪」が増えていること、そしてサイバー攻撃や国際テロなどの「新たな脅威」が生じたことがある。身近な犯罪と新たな脅威が、国民の不安を増大させているのだ。

ICTとともに進化してきた機械警備

 これらを少しでも和らげるために、ICTの力を使えないか、この課題にALSOKは取り組んできた。

 例えば、既存の抑止力が利かない犯罪というのがある。自爆テロやストーカー、通り魔などは確信犯であり、防犯カメラがあるだけでは抑止力としては不十分であり、こうした犯罪を防ぐためには、ICTを活用した新たな抑止力が必要だ。防犯カメラの映像をAI(人工知能)で解析すれば、犯罪の予兆を発見して事前に警備員を派遣したり、スピーカーを通じて声をかけたりするような取り組みが有効だろう。

 あるいは、ベテランの勘や経験により未然に防ぐことができる犯罪もある。フランスの国際特急列車に乗り合わせていた軍人が、トイレから聞こえた物音から自動小銃を持ったテロリストに気付き、すぐさま取り押さえてテロを未然に防いだという出来事があった。軍人の勘がテロの防御に結びついたわけである。

 このような勘や経験も、将来はICTに置き換えることが可能になると考えている。IoT(モノのインターネット)でリアルタイムに情報を収集し、それをAIで分析するシステムだ。テロや犯罪に結びつきそうな異常な状態を映像や音から判別することが可能になるだろう。

 警備業界では、古くからICTを活用した機械警備に取り組んでいる。ALSOKでは1970年代に、専用線に接続したセンサーをドアに取り付けて開閉を検知する機械警備システムを開発している。1990年代の赤外線センサー、2000年代の監視カメラ、2010年代の画像センサーと、ICTの進化に合わせて、機械警備システムも発展してきた。利用するネットワークも専用線からISDN、ブロードバンドインターネット、3GやLTEの無線ネットワークと進化してきた。

犯罪抑止にAIを活用する
さらにドローンやウエアラブルも

 現在は2020年に向けて、第6世代に当たる新しいシステムを開発中だ。ドローンやウエアラブル端末などの新たなハードウエアを使うシステムや、画像分析や予兆分析などの新技術の開発に取り組んでいる。ICTを活用することによって、現在はヒトが担っている役割が機械に置き換えられることになるだろう。

 画像センサーを使った遠隔警備では、現在ヒトが映像を監視して、不審者を見つけたらスピーカーを通して「今すぐ、犯行をやめろ」と威嚇している。将来は、ヒトの役割をAIが担うことになるだろう。平常時と異常時の画像を蓄積して、機械学習によって、異常な状態の画像を判別できるように学習させる仕組みだ。AIが異常を検知したら、コンピュータで合成した音声で威嚇したり、煙を自動的に噴射したりするようなシステムになるだろう。

 労働人口の減少、外国人旅行客の増加といった要因により、新しい警備を希望する事業者が増えてきた。一方、警備業界では人手不足が大きな問題になっている。この観点からも、AIで自動判断する警備体制が必要になる。

 現在、ドローンを使った業務の実証実験を実施している。ドローンで農場を監視して、害獣を驚かせて追い払う仕組みだ。太陽光発電所のような大規模施設の点検も、ドローンを使って自動化することを検証中だ。

 災害の予測にもドローンを使おうと考えている。ドローンでいろいろな角度から地表を撮影して、画像解析によって地滑りを予測する技術を開発中だ。他にもロボットやビッグデータの分析なども活用していく。

他業界や公的機関と協業し、大規模イベントを警備する

 ALSOKは、1965年に会社を設立してから、1970年の大阪万国博覧会を皮切りに数々の大規模イベントの警備を担当してきた。これからも、今年のリオデジャネイロ五輪、2017年の冬季アジア札幌大会とアジア開発銀行年次総会、2018年の平昌冬季五輪、2019年のラグビーワールドカップなどの警備に積極的に関与していく。そして2020年には、東京で開催される五輪の警備に貢献していく。

 大規模イベントの警備は、昔と今で大きな違いがある。それは近年、日本がテロの標的になり得るということだ。テロ対策では、駅やスタジアムなどたくさんの民間人が集まる「ソフトターゲット」の防御など、新たな警備体制が必要になる。

 2020年に向けて、犯罪の抑止力を高めるために、他の業界の企業や公的機関との協業体制を築きつつある。この際に課題になるのが、リスク情報を共有する仕組みをどのように作っていくかだ。犯罪、災害、事故を未然に防ぐには、リアルタイムで情報を共有することが有効だ。そのためにICTをどのように活用していくのかといった課題にこれからも取り組んでいく。