周囲を見渡せば、新技術が可能にした新しい製品、サービスを数多く見つけられる。その背景にあるのは、顧客による革命ともいうべき変化だ。私たちは「顧客の時代」に足を踏み入れている。

 例えば、千葉市がスタートした「ちばレポ」というサービスがある。セールスフォース・ドットコムは、このサービスのプラットフォームを提供している。スマホアプリをダウンロードし登録したユーザーは、公園のベンチの破損や道路の陥没などに気付いたとき、写真を撮って市役所の担当課に知らせることができる。位置情報と連携して、自動的に地図上に場所が表示される。また、市役所の対応については、修理済み・修理中などのステータスが市民にフィードバックされる。「ちばレポ」は、市民視点に立った行政サービスといえるだろう。

 他にも当社が関わってる事例として、和歌山県白浜町のスマホアプリ「白浜リンク」がある。防災や観光、子育てなどの情報が提供される。自治体は、市民を顧客と捉えてサービスを進化させている。

自動車販売店の訪問回数は5回から1.4回へと減少

 一方、企業も顧客の時代に対応するため、変革を加速させている。

 現在、自動車販売業界は大きな変化に直面している。顧客が、1台のクルマを購入するに当たって、店舗を訪れる回数が大きく減少しているのだ。ある自動車メーカーと当社が共同で調査したところ、3年半前には5回だった訪問回数が、最近は1.4回に低下。多くの顧客は店舗に足を運ぶときには、既に何を購入するかを決めている。顧客は店頭ではなく、SNSやメーカーのWebサイトなどで情報を収集するようになった。

 顧客が店舗で商品やサービスを選ぶ時代は終わりつつある。Webサイトなどで比較検討し、購入の意思を固める。そして、自分にとって都合のよいチャネルで買い物をする。自動車だけでなく、様々な業界でこうした動きが目立ち始めている。

クラウドと連動したアプリにより行政サービスが進化
クラウドと連動したアプリにより行政サービスが進化

先進企業が追求する顧客との関係強化と売り上げ増

 顧客行動の変化に対して、企業はいかに対応すべきだろうか。当社が関わったいくつかの事例を紹介しよう。

 まず、資生堂がWeb上で展開している、顧客とのつながりの場「ワタシプラス」の例である。同社はこれまで季節に応じて、登録会員に一斉メールで情報を提供していた。個人の関心の度合いに関係なくメールを送っていたので、有益な情報が埋もれてしまう。そこで、同社はセールスフォース・ドットコムのプラットフォームを活用してワン・ツー・ワン・マーケティングの仕組みを構築した。その際、LINEとの連携により、一人ひとりの会話の内容に即した提案メールを送るようにした。海に出掛ける人には海用の、山に登る人には山用の日焼け止めをレコメンドする。出掛ける時期を推定して、最適なタイミングでメールを送るようにした。その結果、キャンペーンの成約率は30倍に増えたという。

 ある建材メーカーは、営業改革で成果を上げている。同社では以前、営業担当者のKPI(重要業績評価指標)として顧客訪問などの数値が重視されていた。しかし、同レベルの数値の営業担当者でもパフォーマンスにかなりの違いがあることから、当社と共に営業現場の実態を調査したところ、アカウントプランを数カ月おきにチェックし、上司と共にレビューしているかどうかが売り上げに大きな影響を与えることが分かった。この仕組みを当社プラットフォーム上に構築・運用することで、ハウスメーカーからの指名獲得率が大幅に向上した。

 工業用プリンターを製造・販売するサトーグループは、サービス改革の実践例である。プリンターに不具合があれば、工場のラインが止まることもあるだけに、サポート体制づくりは大きな課題。ただ、そのために拠点などを充実させれば、製品価格に跳ね返ってしまう。そこで、同社は機械のデータを吸い上げ、トラブルの予兆を察知して顧客側キーパーソンの携帯端末に通知が飛ぶようにした。顧客にとってはトラブル減少というメリットがあり、一方のサトーグループは低コストでサポート体制を整えることができた。

 ある大手損保会社は、情報共有でエンゲージメント改革を推進している。保険商品には代理店、保険会社、事故対応グループなどの複数のプレーヤーが関わっている。情報共有のプラットフォームを構築することで、すべてのプレーヤーが契約者個人をよく理解した上で対応できる。

 顧客の時代に勝ち抜くために、先進企業は既に動き始めている。顧客との関係づくりや売り上げ増を目指す攻めのIT活用を、セールスフォース・ドットコムは全力で支援したいと考えている。