カラーフィルムの世界市場は2000年にピークを迎えた。その5年前にデジタルカメラが登場、ピークから5年後に市場規模は半減した。次のデジタルカメラ市場は2010年にピークを迎えた。その3年前に世界初のスマートフォンが発売され、3年後の2013年には市場が半減していた。このようにイノベーションによって事業は短命化し、デジタルディスラプションによって様々な業界が根本的な変革を迫られている。

サイバー世界と物理世界の接点における強みを生かす

 カラーフィルムとカメラはコニカミノルタの祖業である。これらの祖業から撤退したのは2006年のこと。その3年前、コニカとミノルタは経営統合した。以後、事業撤退を経てデジタルカンパニーへの変革の道を歩んでいる。その戦略は明確だ。ジャンルトップを狙い、成長が見込める領域や勝算のある領域に経営資源を集中する。ときには戦略的提携やM&Aも活用し、迅速に行動することを心掛けている。当社のコア技術は材料と光学、画像、微細加工の4分野。これらを組み合わせ、擦り合わせて、世界中のお客様にソリューションとして提供している。

 今、第4次産業革命が進行中だ。モノがインターネットにつながることで価値を生み出す。当社もまた、つながることによる価値を追求している。それにより、B2Bビジネスから「B2B2Person」へ、課題解決型デジタルカンパニーへの変革を目指している。デジタルカンパニーというと、ビッグデータ分析やAIなどが思い浮かぶかもしれないが、こうした分野の巨人たちと正面から戦うつもりはない。分析やAIなどを活用しながら、あくまでも自社の強みを生かせる分野に注力している。

 デジタル化の進展により、サイバー・フィジカル・システムが形成されつつある。物理世界の事象をデジタル化してサイバー世界に取り込み、サイバー世界でデジタルデータの保存・学習・判断などのプロセスが走る。結果は再び物理世界に戻されて価値を生み出すという一連の流れである。

 コニカミノルタの強みは、物理世界とサイバー世界の接点にある。物理からサイバーへのインプット、そしてサイバーから物理へのアウトプットの領域だ。そこに関係するユニークなデバイスや技術を軸に展開している。

 事例を複数紹介したい。まず状態監視領域でのレーザーレーダーがある。当社のレーザーレーダーの特長は夜間や逆光に強く、広範囲を隙間なくスキャンすることで、リアルタイムに高精細な3次元情報が取得できること。これにより、形状や物体の計測・識別、動体認識、監視・警告、人物行動解析など多様な領域で価値を創出できる。駐車場や工場などのエリアに設置したレーザーレーダーは物体・人物などの動きを解析し、異常行動者や侵入者だけを検知可能だ。

 物理世界で取得したすべてのデータをクラウドに送るのは現実的でない。ネットワークやデータセンターが耐え切れないからだ。従って、端末側である程度のデータ処理を行う必要がある。これがエッジコンピューティングだ。当社のレーザーレーダーはこの機能を担っていく。

 自前の技術で足りない部分は、外部から調達する必要がある。そこで、当社はネットワークカメラの画像処理で独自のノウハウを持つ独MOBOTIX社を買収。同社のソフトウエア技術を組み込むことで、画像解析や情報分析を加えて顧客の課題を解決するソリューションサービス事業を加速していく。

 例えば状態監視を小売業のマーケティングに応用すると、SNSやオンライン広告閲覧履歴といったオンライン行動と、店舗などのオフラインにおける顧客の行動を統合的に解析して、高度なワン・ツー・ワン・マーケティングが可能になる。

 サイバー・フィジカル・システムを用いたサービスソリューションを、ヘルスケア領域でも展開している。一つに、がんのオーダーメード医療を可能にする高感度細胞解析システムがある。がん細胞に発現するタンパク質の位置や量を可視化することで、患者ごとに最適な治療法の選択に役立てられる。不要な治療を減らし医療リソースの最適配分、医療サービスの効率化にもつながる。これを可能にしたのは、フィルムやコピー機のトナーといった分野で長年培った材料技術である。蛍光ナノ粒子を特定タンパク質に確実に付着させ、その画像をディープラーニングで解析する。

 介護向けのケアサポートソリューションもある。これは部屋に取り付けたセンサーで、起床やベッドからの転落、転倒などの行動、さらに呼吸を検知し、画像解析で現状把握や予測を行うというもの。介護スタッフのスマホに対して、駆け付けが必要かどうかといったレコメンドを送信し、「すぐ駆け付ける」から「見て駆け付ける」へ行動を変える。これにより、介護の負荷を大幅に削減できる。

ビジネス・イノベーション・センターとデジタルマニュファクチュアリング

 デジタルカンパニーへの変革を進める当社は今、顧客中心のイノベーション創出への取り組みを強化している。

 代表的な施策が、世界5極に設立したビジネス・イノベーション・センター(BIC)だ。各センターのリーダーをはじめ、メンバーはすべて外部からの採用とした。彼らには「コニカミノルタのカルチャーは無視して構わない」と伝えており、権限を委譲して自由なチャレンジを促しているところだ。

 製造業としての取り組みでもう1つの大きな柱が、デジタルマニュファクチュアリングへの移行である。自社工場のスマート化だけでなく、サプライチェーンやデマンドチェーンも含めてつなぐことで、人や場所、国や変動に依存しない新しいものづくりプロセスを構築する。そこに当社の特徴あるデバイスを組み込み、活用していくつもりだ。