洋の東西を問わず、昔も今も経営のゴールは長期利益にある。端的に言えば「稼ぐ力」だ。ユニクロなどを展開するファーストリテイリングの年度方針は5秒で終わるという。「儲ける」。これだけだ。グローバル化で苦戦を強いられる日本企業の経営課題は至ってシンプルだ。稼ぐ力を取り戻すことである。

 その主体は「企業」ではなく「事業」である。実際にモノやサービスを作って売るのは事業部の仕事だ。企業はその事業を集約する“器”にすぎない。しかし、メディアの関心は企業にバイアスがかかり過ぎている。ことあるごとに「ソニーの危機」「パナソニック浮上」「日立の復活」「東芝は大丈夫か?」といったことが話題になる。そういうことはどうでもいい。稼ぐ力のリアリティは「事業」にあることを前提に、日本企業の復権の道を考えてみたい。

外部環境型のオポチュニティ企業
価値創出型のクオリティ企業

 稼ぐ力を持つ企業には大きく2つのタイプがある。「オポチュニティ企業」と「クオリティ企業」だ。

 オポチュニティ企業は、事業を取り巻く外部環境の変化を機敏に察知して儲かるところに軸足を移していく。いかに早く、強い握力でデカいオポチュニティ(成長機会)をつかむかが稼ぐ力の源泉だ。本社レベルの戦略的選択に基づいて、先行者利益と規模の経済で成長戦略を突き進んでいく。

 世の中全体が追い風に乗っているときは、儲かる分野が次々生まれるから好調だ。経営者レベルで言えば、三菱財閥の創業者である岩崎弥太郎、日本資本主義の父といわれる渋沢栄一などが代表格だ。手を出した事業が長期成長を続ければ、企業はコングロマリット化し巨大化していく。経済の青春期の主役は間違いなくオポチュニティ企業が担う。成熟経済でも、成長産業ではオポチュニティ企業が活躍する。IT企業のソフトバンク、オンラインゲームのDeNAなどがこれに当たる。

 一方のクオリティ企業は、事業が内部で創り出す独自の価値に重きを置く。ここで言うクオリティとはモノやサービスの品質のことではない。その背後にある価値創造プロセスのことだ。独自の立ち位置で、腰が据わった事業を展開する。

 オポチュニティ企業が「こうなるだろう」という読みに基づいて事業展開するのに対し、クオリティ企業は「こうしよう!」という意志を原動力とする。特定の領域で強みの進化で変化に対応していく。外部環境にそれほど依存しない、成熟経済の主役だ。成功している企業は売上高100億円から数千億円規模が中心だが、営業利益率は総じて10%以上と高い傾向にある。

デカいオポチュニティはめったにない
戦略的ストーリーで価値作りを

 成熟化は経済の必然である。成熟経済下ではデカいオポチュニティはそうそうない。そして日本経済も既に成熟期に入った。日本は多くのクオリティ企業が活躍する「クオリティ企業大国」を目指すべきである。

 クオリティ企業は戦略的ストーリーで価値を作り、社会を味方にする。その好例がベビー用品メーカーのピジョンだ。哺乳瓶の世界トップブランドとして名高い。哺乳瓶を実際に使うのは赤ちゃんだが、使いやすいかどうか、赤ちゃんは意見を言えない。創業者の仲田祐一氏が理想的な哺乳瓶を考案するために、許可を得た上でいろいろな人の乳首を実際に吸わせてもらった“おっぱい行脚”は有名な話だ。母親や看護師の意見も聞いて改良を重ねた。安心で使いやすい商品だから、トップブランドに上り詰めたのだ。いい哺乳瓶を作るという強い意志があり、それを地道に形にしていった。

 世界的ファストファッションブランドのZARAを展開するスペインのインディテックス社の戦略もユニークだ。一般的にアパレル企業は次の流行を予想して売れそうな服を作る。競馬に例えると、パドックで馬を見て馬券を買うようなものだ。当然、当たることもあれば、外れることもある。

 創業者のアマンシオ・オルテガ氏はこれで痛い目を見て思い至った。「予想するから外れるのだ」と。だったら予想せず売れる服だけ作ればいい。いわば競走馬が第3コーナーを回った後で馬券を買うような発想だが、このやり方を成功させるため、多品種の製品を非常に短期間で作り上げるサイクルを確立させた。

 その上を行くのがファーストリテイリングだ。競馬場を飛び出し、牧場で絶対勝てる馬を自ら育て、勝てる馬しか出走させない。時間をかけて“HEATTECH号”を育成し、東レと組んで“牧草(素材)”も自ら開発した。

戦略は未来への意志
「こうしよう!」が成功の秘訣

 クオリティ企業に共通しているのは、結果としての成長であり、結果としてのグローバル化だ。消費者の心をつかんだ製品が海を渡り、ビジネスモデルを支えるサプライチェーンが世界に広がっていったのだ。

 成長企業の経営者は強烈な個性の持ち主が多い。“良し悪し”ではなく“好き嫌い”を軸に仕事をする。アマンシオ・オルテガ氏は自他共に認めるファッション好きで「好きなことをしてきただけ」と公言する。柳井正氏はデカい商売と競争が大好きだ。一方、ファッション通販のZOZOTOWNを展開するスタートトゥデイ社長の前澤友作氏は競争が嫌いで、自分が喜ぶことをするのが好きだという。意志を持つ主体にしか戦略は生まれない。「こうなるだろう」ではなく「こうしよう!」という強い意志が戦略を育むのだ。