2020年に向けて、世界の景色は大きく変わろうとしている。現在の世界人口は74億人ほどだが、20年には77億人になると予測されている。デバイスの数は1000億個になり、その上で1兆のアプリケーションが動いているといわれる。また、世の中で生成されるデータ量は、20年には40ZB(ゼタバイト、ゼタバイトは2の70乗バイト)に達するという。ZBというと想像を超えた単位だが、地球上に存在する砂の数がほぼ1ZBだそうだ。

デジタル時代に求められるトランスフォーメーション

 データ爆発はビジネスにも大きなインパクトを与える。デジタル化が進行する中、今や「ビジネス=IT」といっても過言ではない。自分たちが何を目指すかというビジョンを明確化した上で、経営戦略とIT戦略を一体のものとして策定・実行する。このような考え方でI Tによる変革、すなわちデジタルトランスフォーメーションを推進する必要がある。

 HPE(Hewlett Packard Enterprise)の考えるトランスフォーメーションにはインフラ、セキュリティ、ビッグデータ、モバイルの分野があるが、とりわけ重要なのがインフラだ。デジタル社会のインフラとして、クラウドはその存在感を増しているが、データ爆発に伴う問題を解決できない。

 その一例が、クラウドストレージサービスを提供する米Dropboxである。同社は以前からパブリッククラウドをビジネスのインフラとしてきたが、ハイブリッドクラウドへと大きく舵を切った。これを支援したのがHPEである。消費者向けサービスを提供していたころは、パブリッククラウドでも対応できた。しかし、企業向けのサービスを拡張している同社にとって、既存インフラは様々な面で限界を迎えていた。特に重視されたのがセキュリティだ。パブリッククラウドだけでは必要なビジネス要件をクリアできないと考え、インフラの見直しを決断。パブリッククラウドとプライベートクラウド、オンプレミス環境を統合管理する新しいインフラを構築した。

メモリー主導型コンピューティングと2020年の新しいアーキテクチャー
メモリー主導型コンピューティングと2020年の新しいアーキテクチャー

2020年に向けて開発が進む「The Machine」による革命

 そもそも、ゼタバイト時代にあらゆるデータをクラウドに載せることはできない。ネットワークとデータセンターはパンクしてしまう。コンピュータの基本的なアーキテクチャーは、60年前と変わっていない。中核となるCPUをメモリーとつなぎ、メモリーだけでは足りないのでHDDやSSDなどにデータを格納する。各要素を連結するのは銅線である。こうしたアーキテクチャーが大量の電力を消費する。

 そこで、HPEは抜本的な解決を目指すプロジェクトに取り組んでいる。それが「The Machine」である。

 The Machineの中核にはメモリープールが据えられ、その周囲に複数のCPUが配置される。既存のCPUは汎用のものだが、The Machineのそれは得意分野ごとに役割を分担する。専門に特化した複数のCPUが1つのメモリープールにアクセスし、そこに格納されたデータを用いて計算処理を行う。当然、処理速度は劇的に高まる。

 メモリーや銅線という要素も変わる。現在主流のDRAMは通電を続ける必要がある。それを不揮発性メモリーに切り替える。また、The Machineは銅線ではなく、光通信を採用。電力消費を減らし、処理速度も大幅に向上する。

 The Machineの適用エリアは幅広い。例えば、自動運転である。自動運転車は搭載したセンサーのデータを高速計算しながら走行する。その際、すべてのデータをクラウドで処理するわけにはいかない。反応がコンマ何秒か遅れただけで事故を起こす可能性もある。また、自動車において利用可能な電力は限られている。リアルタイムに他の自動車と情報をやり取りしながら走れば、安全性は高まる。HPEは独BMWとの協業で検証実験を進めている。

 最近関心が高まっているディープラーニングなど、AI(人工知能)の分野でもThe Machineには大きな期待が寄せられている。高度なAIのシステムは、膨大なコンピュータリソースを消費する。TheMachineを使えばデータセンターのスペースや消費電力を大きく削減した上で、極めて高いパフォーマンスを実現できる。将来は1カ所のデータセンターに匹敵する計算能力を、アタッシュケース程度のThe Machineが持つようになるだろう。HPEは2020年の製品化に向けて、The Machineの開発を加速している。既に、主要な要素技術のいくつかはリリースされており、実際に様々なインフラを支えている。HPEはThe Machineをはじめ多様なテクノロジーを磨きながら、データ爆発時代のインフラを支える覚悟である。