かつて自動車はぜいたく品であり、保有することは社会的な地位を示していた。日本における世帯当たりの自動車保有台数は、1976年に0.5台だったが、96年には1台になり、保有していることが当たり前となった。国土交通省の統計では、2016年の国内の乗用車保有台数はおよそ6000万台となっている。ただし、乗用車に限っていえば、その稼働率は極めて低い。いろいろな調査統計から類推すると、乗用車を運転している時間は、1日にならすと約1時間と見られる。つまり1日のうち96%は稼働していない状態だ。

 現在、自動車を保有することが、個人的にも社会的にも大きな負担となっている。個人的には、使っていなくても保守費用や税金などのコストがかかる。社会的には、交通渋滞が大きな問題になっている。国土交通省によれば、渋滞によって、1年間に38億時間が無駄になっており、12兆円の生産性が失われている。公害の問題もある。二酸化炭素の排出量のうち、5分の1は自動車から発生している。自動車によるモビリティは生活の便利さや豊かさを与えてくれる半面、社会が抱える数々の課題の原因にもなっているのだ。

分かりやすいマッチングが課題を解決してくれる

 Uberは、稼働していない自動車を持つドライバーと、A地点からB地点まで移動したいユーザーをマッチングするビジネスを展開している。Uberに登録した人が自分の空き時間と自家用車を使って、他人を運ぶ仕組みだ。

 創業は2009年。創業者であるトラビス・カラニックとギャレット・キャンプが、パリの学会の帰りに、雪で電車やバスが止まってしまったことから、スマートフォンでタクシーを呼ぶというアイデアを思いついたことがきっかけとなった。「ボタンを押すと、車が来る」というコンセプトで、ビジネスを組み立てていった。社会的な課題に挑戦するという戦略はサービス開始以来、世界中でビジネス展開していく中で自然と作られていったものだ。

 2010年からサンフランシスコでサービスを提供し始めたのだが、口コミで評判が広がり、急速にユーザーを増やしていった。現在は世界450都市でサービスを展開しており、2015年末には創業以来、累計で10億回目の乗車があった。

 Uberの成功要因は、テクノロジーを顧客体験や付加価値にうまく結び付けられたことだと考えている。さらに、サービスの利用に伴って蓄積されるデータから新たな知見を得て、経営戦略を立案している点も競争力を高めている要因だ。

 例えば、飲酒運転による事故の発生時間とUberの利用時間を調べると、因果関係があることが分かった。実際、シアトルではUberを導入したら夜間の飲酒運転事故が10%ほど減少した。パリやサンフランシスコでは、公共交通機関のラストワンマイルに、Uberが利用されていることが分かった。郊外に自宅がある人が、鉄道の最寄りの駅と自宅の間でUberを利用していたのだ。ニューヨークでも、マンハッタンなどの都市部より、郊外・地方ほどUberが活用されている。

 最近では、データ分析の結果に基づいて、「uberPOOL」というサービスを開発した。これは、方角が同じ複数の利用者を1台の車でシェアするというサービスだ。利用者のデータを分析すると、同じ時間帯に同じ方角へ向かう人が多いという傾向が分かった。そこで、開発されたのがuberPOOLだ。このサービスは、利用者とドライバーの双方にメリットがある。利用者はタクシー代を割り勘にでき、ドライバーは車の稼働率を上げられるのだ。サンフランシスコでは、既にUber利用の40%がuberPOOLになっている。

日本でも都内のハイヤー業者と提携京都で「買い物弱者」を救う

 私自身は2014年に、米国で初めてUberを利用した。このときに、なんと便利なサービスだろうと衝撃を受けた。社会が抱える課題を解決するという点にも感嘆した。日本に持ってくれば、日本のためになる──。このような思いを抱いた。

 Uber Japanではまず、東京都内においてハイヤー事業者と提携した「UberBlack」をスタートさせた。米国でのサービス開始当初と同様に、プレミアムなハイヤーに乗れるサービスとして利用者が増えている。実際にサービスを提供し始めて利用者の乗車履歴を分析すると、電車などの公共交通機関を補完する形で利用されていることが分かった。

 これを踏まえると、全国に約700万人いるといわれる「買い物弱者」のお役に立てるのではないかと考えた。過疎化、高齢化が進み、公共交通機関が少ない地域では、高齢者などは食料品や日用品の買い出しがままならない。こうした地域でサービスを展開すれば、課題解決につながるはずだ。

 このような構想を形にすべく、京都府京丹後市でNPO(非営利団体)と協力して、「ささえ合い交通」という取り組みを開始した。地元の人が買い物に行きたいと思ったら、スマートフォンで気軽に自動車を呼べるようにした。地元のドライバー18人に「Uberドライバーパートナー」として登録してもらった。現在、同様な取り組みを始めたいと、全国の自治体から多くの問い合わせが届いている。

 日本にはもともと、長屋という「シェアする文化」がある。シェアする文化は様々な課題の解決につながるはずだ。テクノロジーを活用することによって、この文化を近代化し、社会的な課題の解決に取り組んでいく──。これが我々の使命だと考えている。