デジタル化に対応できない日本企業の未来は暗い、と警告を発する特集の第2回。第1回目は日本の家電王国が崩壊した理由を分析したが、今回はアマゾン・ドット・コムが主導する流通・小売りのディスラプション(破壊)の行方を探る。併せて、勃興するシェアリングエコノミーの既存産業に対する破壊的影響なども解説する。

 ネットで書籍を注文しようとした場合、真っ先にアマゾンを使おうと考える。日本で事業を開始したのは1998年。一方、日本の書店には古くから店を構える歴史ある企業が多い。アマゾンがそれらの企業を抑え、書籍のオンライン販売を定着させることに成功した。そして今や、書籍だけでなく消費財や家電、アパレルまで、流通すべてを脅かす存在になりつつある。

 アマゾンのビジョンは次の二つだ。「地球上で最も豊富な品ぞろえ」、そして「地球上で最も顧客を大切にする企業であること」。そしてこれらは、カテゴリー内の取り扱い商品数、注文してから顧客の手元に届くまでの時間、他のEC(電子商取引)サイトと比較した顧客満足度などの要素に分解され、多岐にわたる数字が管理されている。

 アマゾンがビジネスを行う国々には、これらの数字が他のECサイトや店舗に劣後しないよう、改善の責任を負うチームが置かれている。このチームは、CEO(最高経営責任者)であるジェフ・ベゾスの直下に設置された特別なチームであり、CEO自らが、ビジョンの達成に責任を持ってビジネスを行っている。アニュアルレポートの中では、「多くのIT企業は『自分たちが顧客を中心に考えている』と言っているが、その通りにしている企業はほとんどない」と語っている。

 多くの流通業は、顧客満足の向上を掲げながら、慣習的に商品の選択眼、仕入れ、価格設定を行ってきた。これらの業務は、バイヤーの力量に任されてきた。個人のセンスに依存する属人的な仕事として扱われ、業務に関するノウハウは暗黙知のままになってきた。

 アマゾンの場合、仕入れや価格設定は基本的にシステムが行う。特例を除きバイヤーはこれらの業務を行わない。情報はすべてシステムで収集・分析される。様々な商品、様々な国のデータが蓄積される。バイヤーは品ぞろえを拡大する業務に責任を負う。品ぞろえはメーカーや卸売りといった、流通を構成するプレイヤーとの交渉が欠かせず、システム的には解決できないからだ。

 特約店契約を持つようなメーカーだと、アマゾンとの取引に消極的な場合も多い。既存チャネルと競合するからだ。消費者が店舗からアマゾンに移行していく中、今のビジネスモデルを維持すべきなのかについての決断が必要だ。アマゾンは、顧客からの支持を得ながら、様々な業界の既存の秩序や慣習を打ち壊している。アマゾンによるディスラプションに直面している業界の企業ならば、この状況を静観すればシェアはしぼむ一方である。