ネスレ日本が、IoT(インターネット・オブ・シングス)や人工知能(AI)などを活用し、デジタル事業で大胆な挑戦に挑んでいる。スマートフォン(スマホ)で操作可能なコーヒーマシンを10月に発売。さらにソニーモバイルコミュニケーションズと組み、画面上のキャラクターに話しかけてコーヒーを作るなどできる次世代機の開発にも乗り出した。

 「21世紀はモノだけでは解決できなかったことを、サービスで解決する時代だ」。高岡浩三代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)は、デジタル事業に注力する意図をこう説明する。そのために必要なテクノロジーを調達する目を社内で養い、欲しい技術を持つ企業とはスピード重視で遠慮なくタッグを組む。一般企業が最新テクノロジーをまとい、IT企業に肩を並べる高付加価値型のサービスを提供する時代がいよいよ到来した。

写真●10月に発売するBluetooth対応の「ネスカフェゴールド ブレンド バリスタi」
写真●10月に発売するBluetooth対応の「ネスカフェゴールド ブレンド バリスタi」
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 「コーヒーを入れて」「カップは置きましたか」「置きました」「コーヒーを入れますね」――。

 「はい、なにかご用ですか」「今日の東京の天気を教えて」「東京の今日の天気は、晴れ時々曇り」です――。

 あたかも人格を兼ね備えていてコミュニケーションを図れる次世代機は、まさに知能を持った未来のコーヒーマシンだ。ソニーモバイルコミュニケーションズがスマホの派生製品として開発を進めているパーソナルアシスタント端末「Xperia Agent」の技術を応用している。

 ネスレ日本は、話題作りのために次世代機を手掛けているわけではない。「現代日本が抱えている、超高齢化社会や核家族化という社会問題を本気で解決したい」(高岡社長)。そんな志から、次世代機の開発プロジェクトは始まった。

 2016年、65歳以上のシニア層は総人口の26.8%となり、今後ますます膨らんでいく見通し。一方で、核家族化が進んで両親と別々に暮らすケースや、父親の単身赴任や子どもの一人暮らしも急増している。結果として、世帯内の生活がばらばらになり、家庭内のコミュニケーションに断絶が起きてしまっている。「今までのような家族みんなが同じ場所に集って団らんすることは、もう難しい。だったら、離ればなれでも、家族がつながりあえるようなな新しいお茶の入れ方が必要。それを提供することこそ、ネスレ日本の使命だと考えた」(高岡社長)。

写真●現在開発中の次世代機で採り入れる予定の機能
写真●現在開発中の次世代機で採り入れる予定の機能
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 そもそも同社のコーヒーマシン「ネスカフェゴールド ブレンド バリスタ」(以下、バリスタ)シリーズは、発売当初からコミュニケーションの起点になるとの思想が色濃い。専用カプセルで「ブラックコーヒー」「カフェラテ」「カプチーノ」「エスプレッソ」など数種類のコーヒーを楽しめる点は競合製品とほぼ同じだが、付加サービスで独自性をアピールしてきた。

 「ネスカフェアンバサダー」という、企業内にボランティアの支援者を募り組織化するサービスはその一つ。コーヒーマシンの周囲に人が集まり、社内の風通しを良くする環境作りをネスカフェアンバサダーに依頼。そのためのツールとしてコーヒーマシンを提供する。モノ売りではない斬新なコンセプトが支持され、今や賛同するネスカフェアンバサダーは約26万人に及ぶ。バリスタなどネスレ日本のコーヒーマシンの家庭やオフィスへの導入実績は、累計540万台以上と国内トップクラスを誇る。