ITには大いなる可能性と危険性があるが、結局はソフトウエアの問題に尽きる。ソフトウエアの構想、企画、設計、開発、保守のやり方をどう良くしていくのか。ソフトウエア人材の将来像はどのようなものになるのか。日本製ソフトウエアを輸出できないのか。

 ソフトウエアについて様々な人が論じ合える場を用意し、多くの人に考えるきっかけを提供したい。そこで「ソフトウエア、それが問題だ~Software Matters」と題した本連載を始め、この中で、ソフトウエアの諸問題と対策を日本や世界の論客の方々、そしてITpro読者の皆様と考えていく。ソフトウエアに関するご意見をお寄せいただきたい。

 第1回として米カリフォルニア大学バークレー校のRobert E.Cole(ロバート・コール)名誉教授に寄稿いただいた。コール氏は、日本の作業組織の研究で知られる。ミシガン大学社会学及び経営学の教授を務め、日米自動車の製品品質の研究に従事。1980年代には、日本研究センター所長、トヨタ自動車や米ゼネラルモーターズなどの自動車会社のスポンサーシップによる日米自動車研究の長を務めた。1990年に米カリフォルニア大学バークレー校のハース経営大学院に移り、シリコンバレーや日本でIT業界を研究。同志社大学 中田喜文教授との合同研究論文、”The Japanese Software Industry: What Went Wrong and What Can We Learn From It?”(California Management Review, Winter 2014)など、多数の論文を発表している。

 コール氏の原稿は英語で執筆されている。記事では、原文と、新谷ITコンサルティング代表の新谷勝利氏による日本語訳を段落ごとに並べて掲載する。

(谷島 宣之、八木 玲子=Software Matters担当)

Japan seemingly has a vibrant software industry; measured in sales, it competes with Germany for the 2nd largest software industry globally after the United States. Japanese firms also demonstrate strong process capabilities in software development. What, in fact, does this really mean, however, in terms of its ability to produce software innovation leading to globally competitive products and services?

 日本は活発なソフトウエア産業を持っているようである。売上高で見れば、米国に次いで二番目の地位をドイツと争っている。日本の各社はソフトウエアを開発するプロセスの力を誇示している。だが、実際問題として、ソフトウエアによるイノベーションを起こし、世界で競争力ある製品とサービスを提供する、といった観点で見た時に、日本の力はどういう意味を持っているのだろうか?

Japanese business leaders were slow to recognize the transformative nature of software. The success of Japanese manufacturing in the past combined with a monozukuri ideology which minimizes the role of software, except as an enabler of hardware contributes to a lagging recognition of software as a driver of new functionalities, value added and differentiation.

 ソフトウエアは物事を変換しうる本質を持つ。日本のビジネスリーダーはこのことへの理解が遅れていた。日本の製造業は過去、ソフトウエアの役割を最小化する“ものづくりイデオロギー”によって成功したが、そのことによってソフトウエアをハードウエアのためのものとみなしてしまい、ソフトウエアが新機能、付加価値そして差異化の牽引役であることになかなか気付かない。