RFP作成時の業務要求の洗い出しや要件定義など、業務寄りの調査や取りまとめをする場合、実際にシステムを利用し業務を行うエンドユーザーとの打ち合わせは必要不可欠である。

 エンドユーザーの誰に話を聞こうか、というときに問題になるのが「声の大きい人」である。この場合の「声の大きい人」は声量が大きいという意味ではなく、「文句や注文が多い」いわゆる「うるさ型」という人たちである。いくら本人がいない場であっても「あの人はうるさ型だから」とは言いにくいので「あの人は声が大きいから」と言う。読者の中にも「声の大きい人」という言い方を使ったり、聞いたりした方は多いだろう。

 この声の大きいエンドユーザー(以下、大声ユーザー)をどう扱うか、というのはシステム構築プロジェクトで、軽く見てはならないテーマである。大声ユーザーの現行システムに対する不満を全て受け入れて新システムを構築しようとすれば、些末な機能でシステムは煩雑になり、コストも増大する。逆に、大声ユーザーへのヒアリングを避けて、コソコソとシステム構築を進めると、それがバレた時の大声ユーザーの不満の爆発は相当な破壊力となる。プロジェクトの後半で大声ユーザーが騒げば、仕様変更にまでエスカレートしてプロジェクト管理が大きく狂ってしまう例さえある。

 では大声ユーザーは厄介者でシステム構築の大敵かといえば、そうとばかりは言えない。実はシステムに対して関心が高く、業務に対する理解も深い人は少なくない。だからこそ、現行システムの不備な点を突き、こういう機能があったら良いという意見を持っているのである。大声ユーザーは話の内容よりも口調や表現などコミュニケーションスタイルに問題がある場合が多い。上から目線のきつい口調でズバズバ言われたら誰でも嫌な気分になり、ムカッとくるか、あるいは萎縮してしまう。情報システム部は大声ユーザーの懐に飛び込め、と言われても、そう簡単にはできないだろう。

 そこで外部の人間を上手く活用することを考えよう。ベンダーのITエンジニアやコンサルタントと一緒になって大声ユーザーに立ち向かうのである。この時にベンダーに丸投げして、ヒアリングは設定したので後はよろしく、ではだめだ。相手が大声ユーザーで手強いことをきちんとITエンジニアやコンサルタントに伝え、一緒になって作戦会議をするべきである。

 またヒアリングの場には必ず立ち会う。大声ユーザーであっても社外の人間がいれば、多少は口調がおとなしくなるかもしれない。おとなしくならずいつも通りのきつい調子であっても文句は主に外部の人ではなく情報システム部員に向かうはずだ。経験のあるITエンジニアが、あらかじめ大声ユーザーだと聞いていれば冷静に対応できることが多いし、ましてや文句の対象が自分でなければ、口調や表現のバイアスを取り除いて「何が真の問題なのか」を考えることもできよう。

 自分が盾となって大声ユーザーに文句や注文を吐き出させ、それをITベンダーやコンサルタントに上手く拾わせる。なかなかタフな作戦ではあるが、得られるものは小さくない。

永井 昭弘(ながい あきひろ)
イントリーグ代表取締役社長兼CEO、NPO法人全国異業種グループネットワークフォーラム(INF)副理事長
日本IBMの金融担当SEを経て、ベンチャー系ITコンサルのイントリーグに参画、96年社長に就任。多数のIT案件のコーディネーションおよびコンサルティング、RFP作成支援などを手掛ける。著書に「RFP&提案書完全マニュアル」「事例で学ぶRFP作成術 実践マニュアル」(共に日経BP社)がある。