いま世間で最も注目を集めているIT関連の事象といえば、AI(人工知能)であることに異論はないだろう。昨年のことだが、深層学習(ディープラーニング)能力を持つ囲碁のAIソフトウエアがトッププロ棋士に勝利するという“事件”があった。囲碁は将棋やチェスに比べて格段に複雑なため、コンピュータが人間に勝つのはだいぶ先と考えられていたので、多くの人が驚いたはずである。

 筆者は1月上旬、米国で開催されるCES(国際家電見本市)に毎年継続して参加している。2017年の話題の中心の一つは、AIを使った自動運転だった。大手自動車メーカーがそろって出展し、また自動運転ソフトを開発するベンチャーも多士済々だった。

 AIはこれまでも何度かブームと呼ばれる時期があり、昨年から今年にかけて「第3次AIブーム」とも言われている。これまでのブームのように数年で鎮静化するのか、あるいは今回のブームが実用元年となるのか。筆者は実用化が進むと考えている。  というのも、これまでのスーパーコンピュータ上で動作するAIだけでなく、自動車のような大量生産品にその技術が利用されるようになれば、そこからさらに加速度的に他分野での応用が進む可能性が高いからだ。また、特に日本においては少子高齢化による若年層の労働資源不足という大きな問題がある。さらにホワイトカラーの労働生産性の低さの改善という積年の課題もある。企業の経営者が早期のAI導入を図りたい動機はいくつもある。

 もし、経営者が「我が社もAIを積極的に導入するぞ」と号令を発したら、それに対応する部署はどこになるのだろうか。AIはITの一つのジャンルなのだから、情報システム部門が担当するのが当たり前じゃないか、と思うのは営業部門や経理部門などの、いわゆるエンドユーザー部門である。

 しかし、情報システム部門に在籍していれば「急にAIと言われても困る」というのが本音ではないだろうか。その理由の一つは、これまでやってきた「基幹システムの再構築とその運用保守」や「社内ネットワークの管理」といった仕事とは異なるスキルが必要であることだ。

 より大きな理由として、現在の情報システム部門の仕事の範囲では想像するのが難しい点が挙げられる。AIが導入されると、多くの仕事がAIやロボットに置き換わると言われるが、それが現実となると会社の経営や社員のあり方にどれほどのインパクトを与えるのか分かりにくい。また仮に想像できてもそのメリットやデメリットを経営に具申する権限がないことは多い。

 これは「ニワトリと卵」なのである。経営がこれまで情報システム部門を単なる「システムの管理部門」としか扱ってこなかった会社は少なくない。情報システム部門自身が内向き志向となり、短い半径の仕事しかやらなくなったケースもある。それとは逆に既に「情シス」という名称を捨ててシステム部門の役割を再定義し、経営部門の一翼となっている会社もある。

 内向きなシステムの管理部門か、経営の一翼となる部門か。AIの発注者としてどちらが成功する確率が高いかは、言うまでもないだろう。