Q.利用部門のキーパーソンが抽象的な表現を多用するため、話の内容を理解しにくいです。どのように質問したら分かりやすく話してもらえるのでしょうか?

 「在庫の課題が山積み」「コミュニケーション問題」といった抽象的な表現を多用されると、理解しにくいですよね。これらの表現の裏には、何らかの行動や、動きのあるプロセスが隠れています。相手が言葉で伝える際にその行動やプロセスの説明を省略・要約し、名前を付けて「事物」のように表現しているのです。心理学手法のNLP(神経言語プログラミング)では、このような表現方法を「名詞化」と呼びます。

 名詞化すると短く言い表せますから、便利に思えるかもしれません。しかし実は二つのデメリットがあります。一つは、元の行動や状況が分かりにくくなることです。例えば「在庫の課題」は、商品在庫が大量に売れ残っている状況かもしれませんし、在庫の品を取り出す際に膨大な時間がかかっている可能性も考えられます。人によって解釈がまちまちになりがちなのです。

 二つめのデメリットは、表現を聞いた人がその内容を硬直したもの、重たいものと捉えやすくなることです。例えば「コミュニケーション問題」という表現は重大そうに聞こえ、解決しにくそうだと感じませんか?

 しかし、よくよく聞き出してみると「情報を共有する場がない」程度の話だったというケースもあり得ます。このように名詞化は、行動や動きのあるプロセスに「静的な」名前を付けることによって、「変わりにくいもの」と捉えやすくさせてしまうのです。

「誰が」「何をしているのか」を聞く

 そこで名詞化した表現が相手の話に出てきたら、それを解くための質問をします。表現の裏に隠れている動きが見えてくる質問をします。具体的には5W1Hを使い、「誰が」「誰に対して」「何をしているのか」を聞き出していくとよいでしょう。例えば以下のようなやり取りです。

相手「在庫の問題が山積みです」
自分「具体的にどんな状況なのかをお聞かせください。在庫にかかわるどなたが特に問題ですか?」
相手「倉庫から商品を取り出すスタッフが特に問題です」
自分「倉庫のスタッフが何をしているのがよくないのでしょうか?」
相手「店頭のスタッフの指示通りに動けていないのです」
自分「特に何をできないのですか?」
相手「あるはずの在庫を見つけられなかったり、正しく補充できておらず欠品が起こったりしています」
自分「在庫が見付からない原因は何でしょうか?」
相手「商品の陳列ルールが倉庫のスタッフに分かりにくいのかもしれません。システムで在庫を引き当てるタイミングのズレが原因かもしれません」

 このように5W1Hを駆使して動きを与える質問をすることで、動きのあるプロセスが見えてきます。プロセスが見えれば解釈が分かれる心配は少なくなり、打開策も見えてきますね。

 動きを見えなくする名詞化の表現は、ほかにも沢山あります。例えば「悪影響」「見解の相違」などがそうですね。さらに否定的な表現だけでなく、「業務の最適化」のような肯定的な表現も名詞化です。具体的に何を目指すのか、理解がバラバラになりがちです。  従って内容が肯定的かどうかにかかわらず、動きが見えない表現が出てきたら、5W1Hを使って質問します。誰もが同じように認識できる状態になるまで聞き出していきましょう。