研修などで「プロフェッショナルというと誰をイメージする?」と聞くと、イチロー選手という答えが圧倒的に多い。筆者もファンの一人だ。卓越した高度な技術と実績、それに考え方や行動様式、どれをとってもプロフェッショナルのイメージにふさわしい。

 プロフェッショナルというとプロ野球選手やプロゴルファー、サッカー選手などが一番に思い浮かぶ。こうしたスポーツの領域で、アマチュアに対してプロフェッショナルという言葉を使うようになったのは、比較的新しく20世紀になってからと言われている。

 ちなみにアマチュアというと素人、下手、未熟と思われがちだが、アマチュアの語源は、ラテン語のamator(アマートル:~を愛する人)だそうで、愛好家とするほうが適切なようだ。「どんな一流選手も最初はアマチュアだった」というと、最初からうまい人なんていない、みんな努力してうまくなったと捉えがちだが、語源に照らすと、好きだからこそ熱心に努力して上達する、好きこそものの上手なれと考えるほうがしっくりくる。イチロー選手も後者だろう。野球を心の底から愛すればこそ、誰にも強いられることなくあれだけの努力を継続できたのだ。

 またイチロー選手を見ると、アマチュアとプロフェッショナルの差以上に、通常の選手と超一流と呼ばれる選手にも歴然とした差があることが分かる。プロフェッショナルの観点から、学ぶべき点を挙げてみたい。プロフェショナルの使命感や仕事を遂行する姿勢を語る場合、一昔前ならゴルゴ13やブラック・ジャックなど、漫画の世界の主人公が引き合いに出されたものだが、実在の人物をモデルに語れる日が来るとは思わなかった。

レフトフライを捕るライト・イチロー

 最初に挙げるのは「卓越した技による価値の創造」である。イチロー選手の場合、価値は勝利への貢献にとどまらず観客への感動と興奮まで及ぶ。攻・走・守、それに練習中の背面キャッチまで、どれを見ても素晴らしいし楽しい。筆者が最も感動したのは、オリックス時代、レフトが見失ったフライをライトから走りこんできたイチローがキャッチした場面である。

 もちろんITエンジニアがイチロー選手のようにゴルゴ13やブラック・ジャックと比べても遜(そん)色ない域に達するのはまずムリだろう。しかしプロフェッショナルとして差別化されたスキルを身に付けることは必須である。そのための研鑽と努力を惜しんではならない。

 次に「自身が設定する目標に対する厳しい基準」。イチロー選手の夢は高く、若い頃からメジャーリーガーに憧れていた。だが、オリックス時代にイチロー選手のバッティングピッチャーを務めていた奥村幸治氏によると、イチロー選手は、いきなり高い目標を自分に課すのではなく、目標は少し頑張れば手が届くところに設定しないとダメと言っていたそうだ。

 また打率より安打数を目標にすることについても「打率3割を守ろうとするとつらいことも多いが、ヒットを1本増やしたいと思えば楽しめる」と語っている。打率は下がり始めると不安になるが、安打数は、増えることはあっても減ることはない。適切な目標設定に加えて完遂への執着、試合前のルーティン、ケガをせず、身体能力を維持し続けることなどが、結果として数々の大記録につながっている。ITエンジニアも学ぶべき点は多いはずだ。