ITエンジニアの地位向上には「自称プロフェッショナル」ではなく、社会からも認知される必要がある。本コラムでは、さまざまな分野のプロフェッショナルを取り上げ、ITエンジニアと比較しながら「一流の流儀」を考えてきた。今回は、プロフェッショナルの歴史を振り返り、その役割の変化について考えてみたい。

 「プロフェッショナル(professional)」という言葉は、もともと「プロフェッション(profession)」の形容詞として使われていたものである。それが、やがて「人」を指す言葉として使われるようになった。

 「プロフェッション」と言われてピンと来る人は少ないかもしれない。辞書には「職業、知的職業(元来は僧侶、法律家、医者)」とある。ピッタリ対応する言葉が日本語にはなく、プロフェッショナルを分かりにくくする要因の一つになっている。

 現在は医師や法律家が、自らプロフェッショナルと名乗ることも少ない。同じく職業を表す「オキュペーション(occupation)」は、生計を立てるために継続的に行う活動全般を指し、日本語の「職業」に近い。これに対してプロフェッションは、特定の職種のみを指し、しかも職種の範囲は歴史とともに広がってきている。

 プロフェッションが聖職者、医師、法律家といった特定の職業を指す言葉として使われるようになったのは、16~17世紀のヨーロッパとされる。プロフェッションは、プロフェス(profess:公に宣言する、明言する)の名詞形であり、「~する(できる)ことを公言する職業」となる。

 この当時の大学は、教会の影響が強く、神学、医学、法学の三つの学部で構成されていた。大学教育を受けた者すべてが聖職者で、教会内には医術や法を専門にする者も出てきた。

 16世紀頃になると世俗化が進み、プロフェッションと宗教の結びつきが薄れていく。医師や法律家になるのに聖職者である必要がなくなった。その後、商業や建築術の発展によって、会計士や建築士が、新しいプロフェッションとして加わった。

 さらに大きな変化が訪れたのは、18世紀半ばから19世紀にかけて起こった産業革命のときだ。職種も増え、その中で土木技師や機械技師など生産活動に携わる職も、プロフェッションの仲間入りを果たしたのだ。

 20世紀になると、プロフェッショナルという言葉が、プロフェッションから切り離されて使われるようになる。例えばプロ野球選手やプロミュージシャン、映画俳優など、アマチュアに対比して使われた。そして現在では、企業内で活躍する専門家もプロフェッショナルと呼ぶようになる。

 プロフェッショナルと呼べるITエンジニアはどんな姿か。その道に秀で、人を魅了する技術を身に付けている者だろうか。体系的な理論や教育・訓練を受けた者だろうか。

 プロフェッショナルに詳しい学者・長尾周也氏の著書に「パブリック・サービスと紳士的プロフェッション」という言葉がある。高いモラルを持ち、公益に寄与してこそプロフェッショナルだという提言だ。社会やビジネスの中枢を成すシステム。それを創造するのがITエンジニアである。ITを通じて豊かな社会に貢献してこそ、プロフェッショナルと呼べるのではないか。