スポーツならコーチや上級者のアドバイスを受けながら反復練習する、医師なら大学やインターンを通じて基礎を固める。何事も基礎がしっかりできていることが大切だ。では、ITエンジニアはどうだろうか。今回は、プロフェッショナルを志す若手エンジニアに向けて基礎の固め方を取り上げる。

 ITエンジニアの場合、身に付けるべき基礎があまりにも多様だ。技術の進化も速く、仕事のやり方も変わる。当然、基礎をどうやって習得するか、よく分からないところがある。

 プロジェクトマネジャーを例に考えてみよう。プロジェクトマネジメントの知識は、机上で考えて出てくるものではない。現場での経験をベースに形式知化するしかない。プロフェッショナルになるには、その職種固有の専門知識を定義する必要があるが、モダンPMの世界になって知識体系が整備されたのは意義深い。知識の習得は、これを学ぶことから始められる。

 知識体系を理解したら、次にその知識を業務の中でどう使えばよいかを学ぶ。これには組織で標準化したプロジェクトマネジメントのプロセスを利用する。例えば、プロジェクト計画で作成するドキュメントや実施すべき会議体などを、専門用語や概念を前提にしながらその必要性を考える。

 さらに上位になれば、テーマはより大規模で複雑なプロジェクトや、よく定義されていないプロジェクトをどう進めるか、あるいは見積もりやリスクマネジメントといった専門性の高い領域、旬の技術、ネゴシエーションやリーダーシップなどのソフトスキルに移っていく。知識についてはこのように基礎から計画的に積み上げやすい。

 しかし、知識だけを習得しても基礎ができたとは言えない。問題は実践力だ。取得した知識と現場のギャップは大きい。このギャップは、実践経験で埋めることになる。

 筆者らの研究結果では、若手のうちに最終成果が明確で清々と進むプロジェクトを経験し、それから創意工夫が必要なプロジェクトや混乱プロジェクトを担当したほうが伸びる傾向が出た。統計的に有意差が出たというだけで例外も多いが、初めに正しいやり方を覚えてから困難なプロジェクトを担当する、つまり基礎から応用へと進むほうが望ましいという結果だった。

 もちろん、都合よく新人やキャリアの浅い人に向くプロジェクトがあるわけではない。混乱プロジェクトにアサインしなければならないケースもある。清々と進むと言っても、他の業界のプロジェクトに比べればリスキーであり、プロジェクトが突如混乱することも珍しくない。

 それでも困難なプロジェクトでは、どうしてもイレギュラーな動作が多くなる。緊急事態になるとルール無視も発生しやすい。ルール通りやっていたら間に合わないという思いから、ルール破りが一種のテクニックになってしまう。これを若手や新人のエンジニアが当たり前と思われても困る。

 基礎がしっかりできないとプロフェッショナルへの道も遠のく。特に実践経験から学ぶことが大事だ。気にかかったことは、その場で聞けなくてもプロジェクトが落ち着いたときに確認すればよい。一昔前なら先輩の背中を見ながら学ぶしかなかったが、今は知識体系もある。知識と実践力をバランスよく、しっかりと基礎を固めよう。