筆者はプロジェクトマネジャー(プロマネ)の育成に携わって15年になる。社内の認定制度や教育体系の構築を手掛ける一方、自社のトップクラスのプロマネとも面談を重ねた。その中で感じた一番の課題は「大規模プロジェクトを担当できるプロマネをどう育成するか」だった。

 大規模プロジェクトを仕切るプロマネは、まさにプロフェッショナルといえる。そもそもプロジェクトは、人が増えるほどコントロールが難しくなる。同じ教育プログラムを受け、公的資格を取得し、プレイングマネジャーとして十分なスキルがあっても、任せられるサイズに差が出てしまう。

 なぜだろうか。センスや資質と片付けては育成施策につながらない。数年前、自社の研究所や、大学の先生に加わってもらい、プレイングマネジャー(Pタイプ)と大規模プロジェクトのプロマネ(Dタイプ)にアンケートやインタビュー調査を実施した。すると、やはりPタイプとDタイプでいくつかの対応方法に差が出た。

 プロジェクト開始以降や、混乱時の行動特性こそ有意な差は見られなかったが、プロジェクトの初期フェーズ、つまり開始前に両者の違いがはっきりと表れた。

 最も大きな違いは、Pタイプが調査や問題分析を優先するのに対して、Dタイプは問題解決を優先する傾向があったことだ。Pタイプは、調査や問題分析を行って、ある程度見通しがついてから具体的な構想に入る。類似案件の規模や体制、スケジュールを調べ、できるかどうかを分析し、次のステップでどう進めるかの計画を立てる。

 一方のDタイプは、体制や要員調達など大きな問題から着手する。体制を確保できないと、思うようにプロジェクトを進められないので、早めに着手するわけだ。体制が早くできると調査や問題分析もやりやすい。プロジェクト開始時に体制ができていれば、ステークホルダーからの要望も聞き入れやすくなる。

 こうした違いはキックオフミーティングでも表れた。Pタイプがプロジェクトに参加するメンバーで議論して問題点をクリアにすることに重きを置くのに対して、Dタイプは問題点をかみ砕き、メンバーに解決の方向を示して仕事を進めやすくすることに重きを置いていた。

 また、DタイプはキックオフミーティングにPMOや品質保証部門など関連するサポート部門を召集していた。組織に蓄積されたノウハウや知恵を利用してリスクの洗い出しや対応策を議論するためだ。組織の中でプロジェクトを顕在化し、いざというときにスムーズな支援を受けられるように考えている。規模が大きくなるほど、自分が率先して引っ張るよりも、組織を動かし、その力を借りてプロジェクトを進める能力が求められるのだろう。

 PタイプよりもDタイプのほうがよいかと聞かれると、正直悩むところだ。事業の特性にもよるだろう。中規模、小規模のプロジェクトにはPタイプが向いている。

 だが、研究の結果、最初からDタイプの人はおらず、PタイプからDタイプに変わっていくことが分かった。もちろん全員が変わるわけではない。そのメカニズムは解明できていないが、少なくともセンスや資質の問題ではなく、行動特性の差が大きいようだ。