筆者の家にある無線LANアクセスポイント(Wi-Fi AP)は、1台だけだ。しかしそのAPにはPCやスマホ、プリンタやHDDレコーダー、Apple TVなど複数の端末を接続している。スマホで再生している動画をApple TVに送信しながら、PCではWebブラウザーで調べごとをするといった使い方は日常茶飯事だ。こうした使い方が実際にできているので、Wi-Fi APは同時に複数の通信をさばいているように見える。

 しかし、厳密にはWi-Fiは同時に通信をしていない。

 無線LANは、有線LANとは違い送受信の経路が物理的に分かれていない。電波を利用してデータを伝送するため、CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access/Collision Avoidance)方式で同一周波数の端末との衝突を回避している。実際は、ある1つのタイミングでデータ送信できるのは1台の端末だけだ。つまり送信と受信を同時に実行できない。いわゆる「半二重」と呼ばれる通信方式と同じような動きをする(図1)。

図1●有線LANと無線LAN通信の違い
図1●有線LANと無線LAN通信の違い
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 この仕組みはIEEE 802.11a/b/g/nだけでなく、現在の主流であるIEEE 802.11acもwave 1と呼ばれる第1世代までは同様である。

端末が増えても総帯域は変わらない

 Wi-Fiの通信が、同時に行われることはないということを、実測で確認してみよう。

 例えば、1台のAPに3台の端末(1ストリーム端末)がつながっている場合に、それらの端末がサーバーから同時にデータをダウンロードしたとする。前述のように同時に通信できるのは1つなので、この場合は通信が可能な時間を3台の端末で分け合う形になる。そのため送信データ量÷通信時間で算出される帯域は1台のときの3分の1だ。別の言い方をすれば、全部の端末の帯域を合算した「総帯域」は変わらないはずだ。これを実測で検証するわけである。

 無線区間でのロスが少ない状態で計測するために、APはCisco製AP1852E(外部アンテナモデル)を用意し、本来は外部アンテナを取り付けるAPのアンテナ端子にRFケーブルを取り付けて測定装置の「IxVeriwave」(米イクシア製)と接続している(図2)。

※AP1852Eは11ac wave2に対応しており、マルチユーザ MIMO モードでは 3 つの空間ストリームに対応している。当然、11ac wave1端末が接続した際にはこれまで同様の11ac wave1として動作する。
図2●同時に通信していることはないことを確認した際の検証構成
図2●同時に通信していることはないことを確認した際の検証構成
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