新しいパソコンの多くは、無線LAN(Wi-Fi)機能が高速通信が可能なIEEE 802.11ac(以下802.11ac)規格に対応している。筆者が会社で業務利用している2台のパソコンのうち1台は、2016年に導入したもので802.11acに対応している。もう1台は2015年に導入したもので、IEEE 802.11n(以下802.11n)にしか対応していない。

 802.11acの規格上の最大通信速度は、wave1と呼ばれる第1世代で最大1.3Gbps、wave2と呼ばれる第2世代は最大6.93Gbpsである。現在使われている802.11ac対応機器の多くはwave1対応のもので、最近になってwave2対応の機器も増えてきている。

802.11n802.11ac(wave1)802.11ac(wave2)
最大理論値600Mbps1.3Gbps6.93Gbps
サブキャリア変調64QAM256QAM256QAM
チャネル幅20/4020/40/8020/40/80/160
空間ストリーム438
IEEE 802.11nとIEEE 802.11acの最大理論値の推移

 802.11acは、登場当初からギガビット級の通信が可能だった。ただしwave1の最大1.3Gbpsは、チャネルボンディングを80MHz幅で利用するように設計し、3空間ストリームに対応する端末を利用した場合の値だ。これは言い換えると「無線LANのチャンルを4つ同時に使用して、3つのアンテナで通信することが可能な場合」ということになる。

 また1Gbpsを超える通信をするには、アクセスポイント(AP)だけではなくパソコンなどの子機も3空間ストリームに対応している必要がある。新しいノートパソコンの多くは802.11acに対応しているが、おそらく大半はwave1の2空間ストリームまでしかサポートしていないはずだ。つまり無線LANのチャンネルを4つ同時に使用できるが、2空間ストリームの通信となるので、最大通信速度は867Mbpsとなる。

 さらに802.11acの実利用においては、必ずしもチャネルボンディングをフルに使う設計にするとは限らない。本連載では以前、80MHzのチャネルボンディングに関しては、周辺のチャネルとの関係を考えて設計する必要があると説明した。そしてオフィスでは、80MHzのチャネルボンディングを使う設計にすることはあまりない。これを使うと混雑なく使えるチャネル数が足りなくなるためである。

 こうした事情から、無線LANの通信が実測で1Gbpsを超えられるかどうかを試したことがある人は少ないのではないだろうか。そこで今回は、wave1に対応するAPを使って最大速度を実測してみた。

1Gbps超の測定環境を用意するのが結構大変

 最大1.3Gbpsのスループットを計測するためは、1Gbpsを超える想定でトラフィックを流すことができる有線のネットワーク環境を用意する必要がある。だが現在、有線のネットワーク環境で主に使われているのは、1Gbpsのギガビットイーサネットだ。だがこれでは1Gbpsを超える通信を流すことができず、よって実測もできない。

 そこで今回は、マルチギガビット(mGig)対応のAPとスイッチを用意して接続した。mGigは、カテゴリ5eのLANケーブルで2.5Gbpsまたは5Gbpsまで接続速度を上げられる規格である。下の写真の赤色のLANケーブルが、mGig対応ポートに接続したものだ。この状態でスイッチのCLIコンソール(コマンドライン画面)でAPとのリンク速度を確認したところ、5Gbpsで接続されていることが確認できた。

APはシスコのAP3802E、スイッチはシスコのCatalyst 3560CX-8XPD-Sを利用した
APはシスコのAP3802E、スイッチはシスコのCatalyst 3560CX-8XPD-Sを利用した
(撮影:三井情報 厚田 大輔、以下同じ)
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mGigでのリンク速度が5Gbpsで接続されている状態。Speedが「a-5000」と表示されていることでリンク速度が5Gbpsであることが分かる
mGigでのリンク速度が5Gbpsで接続されている状態。Speedが「a-5000」と表示されていることでリンク速度が5Gbpsであることが分かる
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