今回は、米国のドナルド・トランプ大統領と米アップルの関係の話である。

 2017年7月25日付けのWall Street Journalに掲載されたトランプ大統領へのインタビューは、驚きを持って受け止められた。インタビューの中でトランプ大統領は、「アップルのティム・クックCEOがアメリカに大規模な工場を3つ作る。美しい、大きな、大きな、大きな(big, big, big)…」と話したからだ。

 トランプ大統領は、就任以前からアップルが米国に工場を移すことが1つの象徴的なゴールだと語ってきた。また就任直前、あるいは就任後にクック氏を含むテクノロジー業界のリーダーを招いた会合でも、米国内生産への移行を促す方針を強調した。米国の雇用をもたらし、製造業でも再び米国がナンバー1になるという「アメリカファースト」を実現する考えは、現在まで一貫している。

 しかしながら、選挙中のロシアとの関係が指摘されるなどのスキャンダルによって、トランプ大統領の減税案について審議自体が2018年に持ち越されるとも言われるようになってきた。米国での生産は、減税案とのセットだと考えられている。アップルを含む米国企業が諸外国にプールしている資金を米国に戻す際の税率が下がらない限り、米国への投資が活発化しないからだ。

トランプ政権へメッセージも

 アップルはトランプ大統領の政策に対して、完全に「No」を突き付ける姿勢を示しているわけではない。

 確かにプライバシーや多様性の問題に関しては、他のテクノロジー企業と同様に、トランプ大統領の考えや政策に対して反対の姿勢を示している。しかし米国への積極的な投資や雇用の創出については、アップルも応じる姿勢を見せている。

 例えば、アップルは米国内の高度な製造業向けの10億ドルファンドを創設し、1件目の投資先としてiPhone登場以来ディスプレイをカバーするガラスを供給してきた米コーニングを選択した。今後もiPhoneやiPadにはディスプレイをカバーするより強いガラスが必要になってくることから、アップルにとってメリットのある投資だ。

 しかし今までアップルはサプライヤーに対して出資するのではなく、長期間、大量の部品の発注を確約する形を取ってきた。これによって、サプライヤーに生産能力や新しい技術への投資を促し、その成果をアップル製品に生かしてきた経緯がある。ファンドの創設と投資を行うことは、これまでと異なるやり方だ。その点で、トランプ政権に対するメッセージとも取ることができる。