強い組織を作るキモは人材だ。IT部門も例外ではない。システムは企画や開発、運用といった様々な組織で成り立っている。それぞれの組織が十分に機能してはじめて、システムを思い通りに動かすことができる。当然ながら、各組織にいる担当者が十分な力を備えていることは極めて重要だ。ただ、優秀な人材は他部門との争奪戦となり、いつも望ましい人が来てくれるとは限らない。実際には、配属された人材を大切に育てていく必要が出てくる。

 では、どうすればIT部門の人材は育つのか。OJT(オンザジョブトレーニング)や各種の研修は大事だが、あくまで手段にすぎない。筆者の経験からいうと、画一的なプロセスによって効率良く育成できるような“近道”はなく、急がば回れの精神で1人ひとりの能力や適性、理解力に合わせ、地道に取り組むしかないようだ。

 具体的な指導方法としては、より現場感覚を大事にすべきだと考えている。筆者の場合、比較的大きなシステム障害が発生した際には、トラブルシューティングの現場に新人も立ち会わせることにしていた。緊迫した現場の空気に触れ、先輩の動きを肌で感じてもらいたいからだ。

 “修羅場”をくぐっていない人がトラブルに遭遇すると、大きな重圧と緊張感に苛まれ、いたずらに時間を費やしてしまうもの。だが、システム担当者はピンチを迎えてもプレッシャーに負けず、冷静に原因を究明し早期に復旧を図らなければならないのだ。まさしく「知っているということと、出来るということは全く別」なのである。

 現場感覚を身に付けるとともに、各種の資格取得を通じた業務知識の習得や人的ネットワークの拡大なども、総合的な実力を高めることにつながる。ただ、担当者の自己管理がよほどしっかりしていないと十分な成果を上げるのは難しい。目標の達成状況を上司がチ ェックするなど組織的な取り組みも必要となろう。

 さらに、コミュニケーション能力の強化も欠かせない。営業や企画といった部門に比べ、IT部門には会話や説明が苦手な人を比較的多く見かける。そのままでは、いつまでも社内から「言われたことをやる」という受け身の組織と見なされてしまう。それでいいはずがない。

 今やどんな企業にとっても、システムがビジネスの生命線を握るといって過言ではない。重要な役割を担う以上、IT部門にも情報発信と説明責任が求められるのは当然のことだ。システム担当者はユーザー部門からの声に耳を傾けると同時に、説明が必要なことについて積極的に発言できる力も磨いておきたい。