「このままでは日本のIT(情報技術)の未来は、かなり危うい」――。大手銀行やクレジットカード会社で大規模システム開発プロジェクトのプロジェクトマネジャー(PM)を歴任した船串 文夫氏が、危機的状況にある日本企業のIT部門、IT業界の問題点とその原因を、厳しく論じる(編集部)。

原因6:既存資産を有効活用する発想が乏しい

 これは一言でいえば「もったいない」という発想である。15年間、20年間利用してきたシステムをリプレースする場合、前述「原因2」で言及したように、開発担当者からすると、最初から新規に開発した方が作りやすいのかもしれない(関連記事:プロジェクト遅延を「やむを得ない」とするのはとんでもない勘違いだ)。

 いろいろと理由はあるにせよ、長年にわたり追加・修正を加えながら利用してきたシステムには、それなりの安定性がある。既存システムをばっさり捨てるのは実に惜しい。

 既存資産を生かした場合も、もちろん全体を通じた総合テストは必要だ。ただ状況によっては、既存資産部分についてのシステムテストは確認程度のレベルですむかもしれない。この負担の軽減は、コスト面、エネルギー面で大きい意味がある。

 実際、既存資産の有効利用を主要ビジネスとするITベンダーもあるほどで、旧システムを破棄する前に一度は再利用を検討してほしい。もし新旧システムでの言語が異なる点が問題になるようなら、コンバージョンあるいはプロトコル変換など、何らかのツールの活用を検討することになる。

 これは、広義のSOA(サービス指向アーキテクチャー)の発想である。SOAはそもそも、システム内においてコンポーネント化、テーブル化を進める考え方だ。それら部品の再利用性を高めることにより、開発効率を上げ、システムの安定性も同時に高める。

 既存ソフト資産を見極め、再利用可能な部分をグルーピングすると、一つの部品、あるいはツールとして考えることができる。こうした発想で、システム開発の負担は大いに軽減できるはずである。既存資産の有効利用は、情報システムのテーマとしては奥が深い。システム開発の目的に応じた判断が必要だ。