写真1●竹中工務店の粕谷貴司氏
写真1●竹中工務店の粕谷貴司氏
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 2016年8月25日、東京・目黒雅叙園で開催されたデジタルビジネスを推進する開発者向けイベント「Enterprise Development Conference 2016」において、竹中工務店の粕谷貴司氏がIoTやクラウドを使ったビル管理システムの現状と、今後の展望について講演した(写真1)。

 粕谷氏が所属する情報エンジニアリング本部では、IoTなどの先端技術を使ったビル管理システムのビジネス化に取り組んでいる。粕谷氏は、現在のビル管理システムには、「柔軟性、リアルタイム性」「遠隔監視への対応」「強固なセキュリティ」「スマートシティへの対応」が必要だという。

 現在のビル管理システムでは、様々なセンサーから取得したデータを、柔軟かつリアルタイムに処理しなければならない。例えば、室温に応じて空調を調節したり、人の有無によって照明を調節したりするには、リアルタイム性が重要になる。また、遠隔操作による管理の需要も高い。遠隔操作と自動化が進めば、ビル管理会社の人材不足に対応できる。

 ビル管理システムでは、セキュリティも重要だ。「海外では、ビル管理システムのセキュリティホールを突かれて、ビルの設備が破壊されてしまった例が存在する」(粕谷氏)という。また、スマートシティを実現するには、ベンダーの独自規格ではなく、誰でも利用できる共通規格を使って、様々なシステムや機器が連動する必要がある。

 このような社会的、技術的背景から、竹中工務店では新世代のビル管理システム基盤「ビルコミュニケーションシステム(以下、ビルコミ)」を開発した。ビルコミは、従来ビル内のサーバーで行っていた処理をクラウド上のサービスで行うもの。例えば、クラウドサービスとして、電力消費量の可視化サービスや、室温や照明の明るさなどを時刻によって変化させるサービスなどを提供する。これによって、ビル内には最低限のサーバーだけを設置すれば済むようになり、ビル管理会社はサーバーの更新作業やサーバーのリソース不足、ベンターロックから解放されるという。

 さらにビルコミでは、ビル管理システムとクラウド間の通信を共通規格で実現する。例えば、ビル管理システムとクラウド上のサービスは、IoT/M2M向けのプロトコルである「MQTT」で通信する。竹中工務店が開発したゲートウエイ(ren.Gateway)によって、ビル内とクラウド間の通信をMQTTのプロトコルに変換し、竹中工務店が提供する各種クラウドサービスを利用する。また、時系列データの取り扱う際には、設備管理用のプロトコルである「IEEE1888」を利用する。このプロトコルは、標準化されている。

 講演では、竹中工務店の面白い取り組みも紹介された。その一つがゲームエンジンの「Unity」や「Autodesk Stingray」を使ったビル設備の制御だ。これらのゲームエンジンを使ってビル内の3D空間を作成し、3D空間上の照明や音響設備を選択すると、ビル内の照明や音響設備と連動して照明がついたり、音が鳴ったりするものだ。「ビルコム3D」と呼び、主に舞台照明や音響などを直感的に操作したい際に利用できるという。

 また、竹中工務店では、機械学習を使って建物内の1分ごとの使用電力量を予想したり、ビル設備システムの異常検知したりする「ビルコミAI」の開発も進めていると話した。