写真1●トレタ開発部CTO 増井 雄一郎氏
写真1●トレタ開発部CTO 増井 雄一郎氏
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 「解決できる技術を持っていないと、目の前の課題に気が付かない」。2016年8月25日開催の「Enterprise Development Conference 2016」で、トレタの開発部CTO 増井 雄一郎氏が聴衆に語りかけた言葉だ。トレタは予約や顧客台帳の管理など、飲食店運営者向けITサービスを提供している。増井氏はトレタ創業以来のメンバーであり、今でも個人でWebアプリやスマホアプリの開発も続けているという(写真1)。

「速い馬問題」にどう対処するか

 トレタでは当事者が課題に気付けない状況を「速い馬問題」と呼んでいる。「自動車の技術を知らない、速い馬のオーナーに課題を尋ねても、馬についてしか答えは返ってこない」と増井氏。より新しい技術を学び、持っている道具を増やすことが、課題発見の幅を広げるという。

 とはいえ、日進月歩のWebテクノロジーをキャッチアップするのは大変だ。そこで増井氏は「表層の技術よりも、下を支える技術を優先して学ぶ」という自らの勉強法を紹介した。「新しいサービスのような上の技術は振れ幅が大きく、数カ月で消えてしまうこともある」。しかし、プロトコルような下の技術を先取りして学んでいけば、変化の激しい上の技術にも素早く対応できるという。

これから注目の2つのWeb技術

 1990年の「HTTP/HTML」に始まり、現在、増井氏が注目する技術の一つが「WebRTC(Real-Time Communication)」だ。WebRTCはリアルタイムコミュニケーションを実現するAPIの一種で、サーバーなどを経由せずに2台の端末のWebブラウザーなどの間で直接ビデオチャットなどの情報をやり取りできるようにする。WebRTCの登場は2011年だが、「SkyWay」や「WEBRTC」などの開発ツールができたことでようやくアプリを作りやすい状況になったという。

 増井氏はもう一つ注目している技術として、SNSなどで自動応答するBotを作るための技術を紹介した。LINEやFacebookでチャットBotのAPIが公開されたり、対話型アプリを使った転職相談のサービスが始まるなどの動きがあるという。会話解析の難しさから完全な接客ができるシステムはまだ実現していないが、一次対応をBotで行い、複雑な案件だけをコールセンターにつなぐなどの省力化につながる、と増井氏は見ている。

 チャットBotには、複数のユーザーと同時にやり取りができる「同報性」、テキストによる会話記録が残る「可視化」など、今までのWebサービスにない優位性があるという。トレタではビジネスチャットツール「Slack」を全社的に採用している。Slack上でBotに「おはよう/さようなら」とあいさつするだけで出退勤管理ができるという。このシステムは増井氏が自ら作成したものだ。このほかチャットBotに作業を指示するだけでアプリケーションの公開やシステム監視を行う「ChatOps」も社内で利用が進んでいるという。

 こうした新しい業務の解決法は新しい技術を知っていないと思い付かない。増井氏は「新しい問題の発見には道具を知ること」と、改めてこの言葉で締めくくった。