写真1●あいおいニッセイ同和損害保険の梅田傑氏
写真1●あいおいニッセイ同和損害保険の梅田傑氏
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 「IoT技術の進展に伴い、テレマティクスを活用した自動車保険は、普及・拡大を続ける」――。あいおいニッセイ同和損害保険の梅田傑氏は、2016年8月25日に東京・目黒雅叙園で開催されたデジタルビジネスを推進する開発者向けイベント「Enterprise Development Conference 2016」において、IoTを活用したテレマティクス自動車保険の現状と課題について講演した(写真1)。

 テレマティクス自動車保険とは、車から様々な走行データを取得し、センターと車で双方向の通信を行い、得られたデータを基に最適な保険料を決めるものだ。今後、通信機能を備えた車(コネクテッドカー)の増加が見込まれるため、テレマティクス自動車保険が普及すると話す。

 テレマティクス自動車保険は2種類に大別できる。一つは、走行距離連動型(PAYD:Pay As You Drive)と呼ばれ、ドライバーの走行距離に応じて保険料を決定するタイプ。走行距離が長いドライバーの保険料を高くし、走行距離が短いドライバーの保険料を安くする。

 もう一つは、運転行動連動型(PHYD:Pay How You Drive)。走行距離だけではなく、車のスピードや急ブレーキ、急アクセル、急ハンドルなどのデータを取得して、危ない運転をするドライバーの保険料を高くし、安全運転をするドライバーの保険料を安くするというもの。「安全運転をすることで保険料が安くなり、さらに事故を起こしにくくなるメリットが得られる」(梅田氏)という。

 「海外では、運転行動連動型の自動車保険がすでに商品化されていて、米国では300万人以上の契約者を獲得している保険商品もある」(梅田氏)という。しかし国内では、法人向けを中心に、テレマティクスを活用した走行距離連動型の自動車保険が一部で販売されているにとどまる。ただし、運転行動連動型の保険商品は、国内にほとんど存在しないという。

 梅田氏は、国内でテレマティクス自動車保険の商品化に向けた課題を4つ挙げた。それが(1)データの収集方法、(2)データの分析方法、(3)実運用時の課題、(4)既存のサービスとの差異、である。

 (1)のポイントは、多くのデータを集められるかだ。保険商品の開発では、自社の保険契約者のデータしか使えず、他社のデータが利用できない。そのため、データを送信するデバイスの確保と通信料の負担などが課題になる。課題を解決するには、自動車メーカーやIT企業など、データを持つ企業との提携などが考えられる。すでにあいおいニッセイ同和損害保険は、トヨタ自動車と提携して自動車保険の開発している。

 (2)は、取得したデータをいかに効率よく分析できるかである。また、分析するための判断基準も必要だ。取得したデータが安全運転をしているのか、または危険運転をしているのかを判別する明確な基準がなければ、商品化はできないためだ。

 (3)は、走行データの分析と、分析結果をドライバーに伝えることを、タイムリーに行わなければならないという課題が大きい。さらに、位置情報や時間、速度超過などのセンシティブな個人情報をどのように取り扱い、守るのかを考えなければならない。

 (4)は、従来の保険との差別化を指す。国内の自動車保険は、保険の等級制度、運転者の年齢、免許証の色、車の使用目的などで、自動車保険の保険料を決めている。すでに存在する制度とどのように並立させるかも課題であると梅田氏は話す。

 最後に梅田氏は、「国内外でテレマティクス自動車保険の普及・拡大は進む。商品化に向けては保険会社だけではなく、自動車メーカー、デバイスメーカー、IT企業、コンサル企業との提携が重要。また、アルゴリズムの開発などでは産学連携などがカギになるだろう」(梅田氏)と話し、講演を締めくくった。