「企業の多くはタレントマネジメントの第一段階である自動化で満足してしまっている」。HRテックの大手、米コーナーストーンオンデマンドのアダム・ミラーCEO(最高経営責任者)はこう指摘する。同社は人工知能(AI)などを活用したタレントマネジメントのクラウドサービスを提供。日立製作所、日産自動車などを顧客に持つ。企業が事業を世界展開するうえで、人材をどう活用すべきか。勘所を聞いた。

(聞き手は玉置 亮太=日経コンピュータ


コーナーストーンの特徴と強みは何でしょうか。

 人材戦略のライフサイクル全体を包括したタレントマネジメントを支援することだ。企業が自社の採用方針に応じた候補者を探して採用試験を実施。合格者をフォローし、入社手続きを実施する。

投資会社のコンサルタントなどの経験を持ち、社会起業家としても活動するミラー氏
投資会社のコンサルタントなどの経験を持ち、社会起業家としても活動するミラー氏
[画像のクリックで拡大表示]

 入社後は研修を実施し配属。取り組んだ仕事の実績に応じた評価を実施し、成果とゴールに基づいて報酬を決める。さらにはマネジャーや経営層などの職務に応じた後継者候補を選び、育成する。

 当社のクラウドサービスは、これらタレントマネジメント活動にかかわるあらゆるデータを一元管理するデータベースを提供。従業員ごとに、成果や実績を閲覧したり分析したりできる。

 最大の特徴は、人材の過去のデータを振り返るだけでなく、将来の成果を予測できることだ。長く在籍しそうな従業員や逆に離職しそうな従業員、生産性の向上に結びつきそうな研修プログラムと実施した場合の向上度合い、業績や職場環境と従業員の成果の関係、職務ごとの後継者となり得る人材。データを基に、こうした予測を実施し、人材活用戦略に生かすことができる。

これまでの導入実績を教えてください。

 1999年の設立以来、世界191カ国で3000社が当社製品を導入し、2600万人の成果を管理している。代表的な導入企業は日立製作所や日産自動車、デンソー、キヤノン、三井不動産などだ。

タレントマネジメントは人事だけの仕事にあらず

対象の利用者は人事部門だけでしょうか。

 そうではない。人事部門や経営層に限らず、現場のマネジャーも対象だ。人材を生かす活動は、人事にも現場のマネジャーにも重要だからだ。

 例えばプロジェクトチームを編成する際に、誰をメンバーに加えるべきか。部下の目標設定と達成度合いをどう支援し、キャリア開発を促すか。これらは全て、現場のマネジャーの仕事だ。人事部門はこうした人材活用の枠組みを作り、全体を管理する。経営層は全社の業績と関連づけながら、従業員の成果を管理する。当社の製品は、それぞれの立場に応じたタレントマネジメント活動を支援する。

そもそもタレントマネジメントに注目したのはなぜですか。

 データ分析や自動化が難しい、企業向けソフトの「最後の砦」と考えたからだ。ERP(統合基幹業務システム)やSCM(サプライチェーン管理)、CRM(顧客関係管理)など、いまやあらゆる企業活動にITが浸透し、自動化されつつある。

 しかしタレントマネジメントは立ち後れている。人材はモノではない。常に成長し、移り変わる。行動様式も一様ではない。IT化が難しい領域だからこそ、ビジネスチャンスがあると考えた。

 タレントマネジメントはますます重要性を増していると言えるだろう。象徴的な事象が、「ミレニアル世代」と呼ぶ若手世代の増加だ。彼らは1社に仕事人生を全て捧げたいとは考えない。彼らの成果を発揮させ、自社にとどめておくには、属人的な人材管理手法では限界がある。