IoT向けのLTE規格「NB-IoT」は、前回取り上げたLTE-Mとは異なり、GSMと同じ200kHzの周波数帯域幅でも運用できるシステムとして設計された。ただし、基本的な信号波形はLTEと互換性があるものの、LTEのチャネルなどの再利用はできない。

 以降では、下り物理層と上り物理層に分け、NB-IoTの主な仕様について見ていく。

下り物理層仕様

信号波形

 NB-IoTの下り信号波形は、LTEで採用されているOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)信号と同一であり、チャネル間隔もLTEと同じく15kHzである。NB-IoTの周波数帯域幅は、GSMの周波数帯域幅と同じ200kHzであり、これはLTEの1リソースブロックを送信可能な周波数帯域幅である。すなわち、NB-IoTはLTEの1リソースブロックを使用するシステムである。

同期信号、報知チャネル

 NB-IoTは、LTEの1リソースブロックを使うシステムであるため、Cat-M1のようにLTEで使用されている同期信号や報知チャネルを再利用できない。なぜならば、これらを再利用するには、UEは6リソースブロック分の信号を受信する必要があるからだ。

 そこでNB-IoTでは新たに、1リソースブロックのみを使用する同期信号(Narrowband Primary Synchronous Signal/Narrowband Secondary Synchronous Signal:NPSS/NSSS)と報知チャネル(Narrowband Physical Broadcast Channel:NPBCH)を導入した。

制御チャネル

 LTEと同様、NB-IoTでも、制御チャネルを用いてページング情報や各ユーザーに対する下りデータ信号のフォーマット情報、上りデータ信号の送信許可を送信する。このためNB-IoTでは、1リソースブロックだけを使って制御情報を送信できるNPDCCH(Narrowband Physical Downlink Control Channel)を新たに導入した。

データチャネル

 制御チャネルの場合と同様、データ送信についても1リソースブロックだけを使ってデータを送信できるNPDSCH(Narrowband Physical Downlink Shared Channel)を新たに導入した。

 UEの受信回路簡略化のために、NPDSCHの変調方式はQPSKに限定される。またチャネル符号化も、LTEで使用されるターボ符号ではなく、畳み込み符号という制御チャネルなどで使われる符号を採用する。これにより、誤り訂正能力が若干劣化するものの、受信回路の簡略化につながる。

▼ターボ符号:誤り訂正符号の一種。誤り訂正符号は受信時に発生するエラーを修正するために使う。ターボ符号は、畳み込み符号に比べて強力な誤り訂正能力があるものの、受信機側での復号処理が複雑になり、消費電力が大きくなるという欠点がある。LTE端末のチップセットでは、専用のLSI回路で実現することが多い。
▼畳み込み符号:誤り訂正符号の一種。ターボ符号に比べて誤り訂正能力は落ちるものの、受信機側での計算量が比較的少ないため、汎用のディジタル信号処理プロセッサでも実装可能である。