IoT向けのLTE規格「LTE-M」の仕様は、Rel-12およびRel-13で検討された。今回は、各リリースごとにLTE-Mの仕様がどのように決められたのか解説する。

Rel-12で標準化されたLTE-M仕様

 2012年に始まったRel-12では、Rel-11のスタディアイテムの結論を基にしてIoT向け通信(Machine Type Communications:MTC)向け標準の検討を開始した。標準化された主な仕様を見ていこう。

UEカテゴリー0(ゼロ)

 UEカテゴリー0(Cat-0)が新たに設けられた。これは単位時間当たりの最大送受信データサイズを上りと下りを共に1000ビットとするUEカテゴリーである。

 LTEでは、単位時間を1ミリ秒としているため、Cat-0 UEのピークレートは上り、下りともに1Mbpsになる。それまでピークレートが最小であったCat-1よりさらにピークレートが小さいということで、Cat-0と名付けられた。ただし、送受信に必要な周波数帯域幅はRel-8 LTEと同じであり、最大で20MHzの信号を送受信する能力を持つ必要がある。

半2重FDD方式

 Rel-12のMTCでは、従来の(全2重)FDD方式とTDD方式に加えて、半2重FDD方式も正式に導入されることになった。ここで「正式に」と書いたのは、実はRel-8から半2重FDDは可能だったためである。ただし、Rel-11で検討されたような発振回路の簡略化や上りと下りの周波数切り替え期間は考慮されていない。

 Rel-12での半2重FDD方式の検討では、デュプレクサーではなくアンテナスイッチを実装する、発振回路は1つにする、などの高周波回路の構成を前提として標準化が進められた。その結果、上り周波数と下り周波数の発振回路を切り替える期間として1ミリ秒を想定する半2重FDDタイプBが導入された。

 なお、切り替え期間を想定しない従来の半2重FDDはタイプAと呼ぶことになった。このタイプBの半2重FDD方式は、後で述べるCat-M1やNB-IoTで前提とする半2重FDD方式でもある。

ネットワーク接続の手続き

 Rel-12のMTCの特徴は、LTEの物理層にほとんど変更がないことである。従って、Cat-0 UEのネットワークへのアクセス手続きは従来のLTEと同じであり、違いはスケジューリングされるデータの最大ピークレートが1Mbpsに制限された点のみである。

Rel-13で標準化されたLTE-M仕様

 2014年に始まったRel-13では、MTCの仕様として、Rel-12で標準化されなかった周波数帯域幅削減と、それを前提とするUEカテゴリー、カバレッジ拡張などを導入した。

最大周波数帯域幅削減およびMTC専用制御チャネル

 Rel-13のMTCでは、UEの最大周波数帯域幅を1.4MHzとした。この1.4MHzという帯域幅は、LTEで運用可能な最小の周波数帯域幅であり、リソースブロック6個分の周波数帯域幅に相当する。

▼リソースブロック:LTEでスケジューリングが可能な最小の構成要素である。ここでのスケジューリングは、UEへの無線リソースの割り当てを意味する。

 LTE基地局は、下りの周波数帯域中央の6リソースブロックを使い、同期信号やシステム情報を送信している。LTE UEはネットワーク接続の際、この中央の6リソースブロックを受信し、その中のシステム情報からLTE基地局が送信で使う全体の運用周波数帯域幅(例えば10MHz)を知る。Rel-13のMTCでもこの仕組みを流用する。

 既存LTE UEやCat-0 UEとの違いは、LTEの運用周波数帯域幅にかかわらず、1.4MHzに相当する6リソースブロックだけを受信すれば済む点である。Rel-13 MTCの使用するこの6リソースブロックは「ナローバンド」(Narrowband、狭帯域)と呼ばれる。

▼ナローバンド:1リソースブロックしか利用しないNB-IoTがあるにもかからず、6リソースブロックをナローバンドと呼ぶのは、3GPPで「ナローバンド」と名付けると合意した時、まだNB-IoTの議論が始まっていなかったためである。

 このときに問題となるのは、下り制御チャネルの送信である。LTEには、下り制御チャネル(PDCCH、Physical Downlink Control Channel)が定義されており、このチャネルではページング情報や各ユーザーに対する下りデータ信号のフォーマット情報、上りデータ信号の送信許可などが送信される。制御チャネルは基地局の周波数帯域全体を使って送信されることになっており、例えば周波数帯域幅が10MHzのLTEシステムでは、制御情報取得のためにUEは10MHz分の信号を受信する必要がある。

 Rel-13 MTCでは、MTC向け下り制御チャネル(MPDCCH、MTC Physical Downlink Control Channel)を導入した。このチャネルは、使用するリソースブロックを最大6としたまま、すなわちナローバンド内でPDCCHと同じ制御情報を送信することができる。

 MPDCCHに含まれるデータ信号のフォーマット情報を受信した後、1ミリ秒の準備期間の後、UEはデータチャネル(PDSCH、Physical Downlink Shared Channel)の受信を行う。このフォーマット情報にデータチャネルの使用する周波数帯域幅が含まれており、Rel-13 MTCに対しては最大でもナローバンドに収まるように制限される。なお、上り送信に関しても同様で、ナローバンドに収まるように制限される。

 Rel-13 MTC用に割り当てられるナローバンドの位置は、LTEの周波数帯域幅に依存する。例えば10MHzの周波数帯域幅がある場合、LTEは50リソースブロックを利用することができるため、8つのナローバンドを割り当てることができる。MTC UEが実際にネットワークで使用するナローバンドの位置は、基地局からのシステム情報によって割り当てられる。

 また、複数のナローバンドを一定時間ごとに切り替える周波数ホッピング送信モードも利用できる。この場合、MTC UEは受信する周波数を切り替えていくことになる。図17に、Rel-13 MTC向けデータ送信と周波数ホッピングのイメージを示す。本図に示されているように、MPDCCHでデータ送信のスケジュールが行われた場合、対応するデータを運ぶPDSCH(Physical Downlink Shared Channel)は1ミリ秒後に送信される。

図17●Rel-13 MTC向けデータ送信と周波数ホッピングのイメージ
図17●Rel-13 MTC向けデータ送信と周波数ホッピングのイメージ
出典:エリクソン
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