もうだいぶ昔のことであるが、若い米国人青年と酒を飲む機会があった。当時、米大統領だったジョージ・W・ブッシュをからかうジョークが色々いろいろとはやっており、私はたまたまそれらをいくつか知っていた。

(提供=123RF)
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 そこでそのジョークをひとしきり披露してみた。結構盛り上がったように思えたのだが、青年は「少し声を落とすように」とささやいてくるのである。まるで誰かに聞かれるとまずいとでもいうように。政府関係者の耳に入ってしょっ引かれるとでもいうのだろうか。

 米国から遠く離れたアジアの地方都市のバーである。まばらな酔客は見るからに現地人で、意味を聞き取りそうな欧米からの旅行者すらいない。そもそも、例えそこが米国内だったとしても、そんなことを心配する必要があるのだろうか。

 大統領の悪口を言ったことが理由で米国民が秘密警察に逮捕されたなんて話はさすがに聞いたことがなかった。いぶかしく思って真意を聞いてみたのだが、返ってきたのは、米国政府はそんなに甘くないのだという強くて短い説明だけだった。

 官憲の耳目を警戒する感覚が米国民共通なのか、彼特有なのは定かではないが、とても不思議に思ったものだ。

 いずれにせよ、米国は奇妙に情報統制と情報公開が同居した国のようである。いまもなお、米国は日本と異なり、戦争を絶え間なく経験し続けてきている戦争当事国である。そのことがもたらす引き締めと、言論の自由を標榜する国是が葛藤を続けているのだろう。

 時に、この理想の方が勝ることのあらわれとして、米国では非常に公文書の情報公開が進んでおり、その恩恵にはインターネットを介してあずかれる。