「本日の他のセッションを聞いたり、メディアの報道からFinTechが怖いものだと思っている銀行関係者がいたら、安心してほしい。FinTechが銀行業務を奪うということは起きない」。2016年8月3日開催の「FinTech Impact Tokyo 2016」(日経FinTech、CIO(IDG Group)主催)の講演「デジタル時代の創造的破壊と日本へのインパクト」で、IDC Financial Insights、Managing Director、Financial Services & IT Executive ProgramsのCyrus Daruwala氏はこう切り出した。

Managing Director、Financial Services & IT Executive Programs、Cyrus Daruwala氏
Managing Director、Financial Services & IT Executive Programs、Cyrus Daruwala氏
(撮影:中尾 真二)
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 同氏は「データをどのように使い、良い顧客体験を提供できるデジタル変革につなげるか」こそが重要だと述べたうえで、「銀行は最大のデータを保有する存在だ。FinTech企業は金融業のライセンスもデータも持っていない」と指摘する。

 従って、「FinTechが既存の銀行業に取って代わることはなく、従来の金融機関ができなかった部分を埋めるために利用するもの」とする。例えばP2Pでの口座開設、送金や支払い、銀行の新しい送金システム、遅いといわれる銀行の諸手続きの改善などに利用するのがFinTechだという。

デジタル変革を金融・銀行に

 同氏はFinTechに対する投資は慎重に行うべきと指摘した。「FinTechの成功率は実に165分の1にすぎない」からだ。165社のうち1社のスタートアップしか離陸できていない。ただし、日銀をはじめ、シンガポールや香港の政府、金融機関もFinTech支援を表明している。保守的といわれるインドネシアでもFinTech投資支援を決定する。こうした情勢から、利益の20%以下の範囲で投資はすべきだとする。

 こうした背景から、むしろ従来型の事業、特に商業用不動産への投資は避けるべきと助言する。「渋谷や六本木のショッピングモールはお薦めしない。これからはデジタルサイネージやデジタルウォレットのような案件への投資がメインになるだろう。例えば不動産屋はVRを活用して店舗をあまり持たなくなるかもしれない。リテールにもいろいろな影響が出るだろう」(同氏)。保険業については、「IoTが発達するとドライバーの情報や運転履歴が分かるので、保険適用の判断、処理も短くなる」とする。

 このようにECやリテール、サービスの様々な面で、創造的破壊が起きると同氏は指摘。そして、金融業・銀行がこうした新しい技術をビジネスに活用することがFinTechだとした。

 では、金融業・銀行はどうやって新しい技術を生かせばいいのだろうか。これについて同氏は「デジタル変革(Digital Tranformation:DX)で重要なのはデータだ。顧客を識別し、分析し、送客に生かすこと」と助言する。