年間2000万人の訪日外国人の消費や移動に関するビッグデータは“宝の山”だ。目立たない地方の観光地に人を呼び込むツールになる。地域内の動向をつぶさに追えば、従来の調査では見えにくい旅客の実像も見える。これを生かしてサービス改善を図る動きも出ている。

 「交通に特化したデジタルマーケティングを磨いてきた。訪日外国人も含めた旅客の動向が全てWebサイトに集まる」。

 高速バスの大手WILLER ALLIANCEで販売部門を担うWILLER TRAVELの光吉眞生・常務取締役はこう話す。WILLERは夜行便を中心に1日20路線230便を運行する。「WiLLシステム」と呼ぶ自社開発の予約管理システムを軸に成長してきた(図7)。

図7 WILLER ALLIANCEのWebサイトとバス
データを運賃最適化と訪日外国人増加に徹底活用
図7 WILLER ALLIANCEのWebサイトとバス
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「ネット予約率98%」の分析力生かす

 同社のネット予約率は98%に上る。当日に乗り場を訪れて空席に座るのはごく一部で、ほぼ全数がネット販売。人手や代理店などを介さないため、予約・キャンセルのデータが即時にWiLLシステムに反映される。

 このデータを、運賃の最適化に生かす。空席は在庫にできず、出発時刻を過ぎた時点で無価値になる。これを避けるために、早期割引などで座席を埋める。高速バスでは、国への届け出で座席の種類・プランによって運賃を変えられる。さらに届け出なしでも20%の幅で運賃を変えられる。WILLERのバス運賃は需給に応じてWiLLシステム内で自動計算し、リアルタイムで変動する。

 WILLERにおける訪日外国人旅客は、2015年に約10万人。2010年当時の約3倍に急増した。外国人旅客増加のツールとしても2010年ごろからWiLLシステムのデータをフル活用している。「日本人と訪日外国人では利用傾向に明確な違いがある」(光吉常務)。日本人の利用が休日前に集中するのに対し、訪日外国人は平日も満遍なく利用する。このため、外国人専用の平日割引運賃を設けて平日の乗車率を高めている。

 岐阜県飛騨地方や長野県などへ向かう地方路線は外国人比率が高いことが分かっている。「温泉地や雪景色など日本ならではの魅力がある場所へバスで直行する需要がデータから見えてきた」(光吉常務)。これらの地方の魅力を発信する外国語のコンテンツを強化中。外国人訪問を増やしたい地方の期待に応えつつ、平日の乗車率を高める狙いだ。